第3話
私には1人、心当たりの人物がいた。浄霊だの呪教だのオカルト好きの胡散臭いことこの上ない人物だけれど、どこか確証があった。彼ならば、力になってくれるのではないかと。
「お、ミナか!久しぶりじゃん!」
この人だ。名前はシデン。自称浄霊師で様々な幽体や霊魂を操る事ができる、と周りにいつも言いふらしている。みんなは全く相手にしないけれど、私には彼が嘘を言っているようには思えなかった。
「ええ。シデンも元気そうね」
彼は同い年で、幼馴染のような関係だ。こうして、気軽に話ができる間柄にある。
「まあ、入って入って」
彼に手招かれ、屋敷の中へと足を進める。ちなみに、私はここにくるのは初めてではない。彼には修行僧のような一面があるので、何か悩みがある度にここを訪れ、彼に相談に乗ってもらっていた。今日もまた、大きな相談を彼に投げつけようとしている。
「で、どうした、今日は?」
「ええ、それが…」
私は彼に全てを話した。リリの事、婚約者の事、ここに来るに至る全ての事を。
彼は全てを聞き届けたのち、一言口を開いた。
「それで、ミナはどうしたいんだ?まさか2人を殺したいとでも?」
「いえ、そうじゃないの」
「じゃあ一体…」
私がここを訪ねた地点で、霊魂や幽体を使った殺しを依頼してくると思っていたのだろう。彼はやや不思議そうな顔をしている。私はシデンにはっきりと、包み隠さず目的を告げた。
「単刀直入にいうわ。リリを病弱にしてはやれないかしら?」
「!?」
私の依頼に、シデンはかなり驚いた様子だ。あまりにも想定外な依頼だったのだろう。私は感情的にならぬよう気をつけながら、冷静に続ける。
「よく考えてみて?これは彼女のためでもあるの。このまま病弱を演じ続けて、周りに甘やかされっぱなしだったら、リリは全く成長しないじゃない。粗治療なのは承知の上だけれど、それくらいやらないとダメだと思うの」
「うーん…」
自分では、筋は通していると思う。正直リリの成長なんてどうでもいいけれど、彼女が病弱を演じるなら、それを現実にしてあげようというのは、姉なりの優しさと言っても良いのではないだろうか。
シデンはしばらく俯いたままだったけれど、意を決したのか、頭を上げ口を開いた。
「…はっきり言って前例がない。うまくいくかどうかもわからない」
私は黙って聞く。
「…それでも、やるか?」
シデンは私の目を見て、返答を求めている。前例がなかろうとも、確証がなかろうとも、私の答えは決まっていた。
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