第2話

 私は1人、自室で泣いていた。あんな男、別れてしまえと心の中の私が言っている。けれど、私の心の中には彼との思い出が溢れていた。彼は本当に優しくて、人が良い。私が今まで話した男性の中で、一番素直な人だった。

 だからこそ、リリにそそのかされてしまったんだと思う。…いつもこうだ。いつもリリはこうして私から大切な物を奪って行く。今回に至っては婚約者まで…もう笑うしかない…


「…ははっ…ははっ…」


 涙が頬を伝うのがわかる。もう正直、彼への想いは薄れている。けれども溢れ出るこの感情は、間違いなくリリに対してのものだ。よりにもよって、リリに婚約者を横取りされた現実に、怒りと悔しさが止まらない。…今回ばかりは、黙って引き下がる事はできない。

 …そうだ、リリがそんなに病弱になりたいのなら、その願いを叶えてあげれば良いんじゃないだろうか?リリは病弱を器用に演じているけれど、もし本当に病弱な体になった時、彼を含め周りには大きな負担がかかるはずだ。彼がそれでもリリを愛するというなら、私は素直に身を引こう。けれど、もしそうならなかったなら…

 その時、私の部屋の扉がノックされた。私は涙を拭い、一度深呼吸をし、返事をした。


「はい」


「入りますわ、お姉様」


 訪れてきたのは、リリその人であった。見ての通り、手足共にピンピンしている。彼のいないところではこれだ。


「…なんの用?」


「そうですわねぇ…婚約の挨拶かしら?」


「…」


 言葉が出ない。やはりこの女確信犯だ。きっと、サルタの事だって別に好きではないんだろう。ただただ、私との関係を横取りしたい、それだけなんだろう、本当に。


「お姉様は女のくせに不器用すぎますわ。女ならもっと器用に動きませんと…お姉様は真面目すぎ…」


「…それが、貴方のやり方?体が弱いふりをして愛嬌を振りまいて、リリは本当にそれで良いの?」


「私の心配よりご自身の心配をなさいませ、お姉様」


 どうやら改心の余地はなさそうだ。リリもリリだが、ころっと騙される男も男だ。こんな地雷女、見ただけで分かるだろうに…


「お姉様ももっと、露出を増やしてみてはいかがかしら?もっとも、露出できるようなところがあればの話ですけれど(笑)」


 わざとらしく胸を強調し、ネチネチと嫌味を言ってくる。サルタったら…こんな女のどこが良いのよ…

 リリは満足したのか、適当に挨拶を告げて去っていった。私は感情が爆発する寸前だったけれど、彼女のおかげで決心がついた。

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