そんなに病弱を演じるなら、本当に病弱にしてあげる

大舟

第1話

「ミナも早くおいでよ!」


「はーい!」


 私は今、婚約者のサルタと2人でピクニックに来ている。彼は貴族の仕事が忙しく、2人で出かけられることはあまりない。だからこそ今日は、心の底から楽しまなければ。


「あ、あそこ!」


 私が指さす先には、展望台があった。場所から考えても、絶景が見えるに違いない。


「いきましょ行きましょ!!」


「わかったわかったーもー(笑)」


 私が手を引き、彼の足を急かす。しかし途中、慣れないヒールに足を取られ、転んでしまいそうになる。


「ひゃっ」


「おっと!」


 倒れそうになった私を、サルタが優しく抱き抱える。体の温もりが、服を通じて伝わってくる。


「だ、大丈夫?」


「ごっごめんねっ///」


 彼に支えられ、私は体勢を戻す。自分でもはしゃぎすぎてしまっていたようだ。


「じゃ、行こうよ!!」


 今度は彼に手を引かれ、展望台を目指す。ここまで伝わる彼の温もり、匂い、全てが愛おしい。私は本当に、幸せだった。



----


 …ここの汚れ、なかなか落ちないなぁ。私は静かに家の掃除をしている。本当は使用人の人が担当してくれているけれど、何かやっていないと頭がおかしくなりそうだった。しかし、心を無心にはできない。私はつい最近の出来事に、頭を巡らせていた。





「お兄様ぁ。私、お兄様がいないと寂しくて…」


「大丈夫だよ、リリ。僕はずっと側にいる。っと、そろそろ食事の時間だよ?一緒に行こう」


「はい、お兄様」


 サルタはそう言うと、リリの肩を取り、歩き始める。リリはもはや、サルタに抱きついているような姿勢だ。あの女、足なんて一つも悪くないのに…

 食事も食事だ。薬の副作用で少し手に力が入らないだとか言って、サルタに食べさせてもらっている始末だ。リリは可愛らしくてスタイルも良いため、サルタはすっかりリリにメロメロだった。

 そしてそんなある日、運命の日が訪れた。私はサルタに呼ばれ、彼の自室を訪ねた。そこには既に、リリも来ていた。邂逅早々に、サルタは衝撃の言葉を発した。


「…ミナ、実は、ぼ、僕は、リリと婚約をしたい…」


「…は?な、なんと…」


「け、決してミナのことが嫌いになったとかじゃないんだ!!君は素敵な女性だと心から思ってる!!」


 な、何を言っているんだ…この人は…?


「だ、だけど、リリには僕がついていなきゃダメなんだ…彼女はか弱いから、僕が側にいてあげなきゃ…」


 …本当にそれだけか?リリの透き通った白い太ももを凝視していたり、豊満な胸に視線が釘付けだった気もするが。


「わ、わかるだろう!?リリには理解あ者が必要なんだ!」


「…」


 私は呆然とする。そんな中何とか視線を動かし、リリの方に目をやる。彼女は目を細め笑みを浮かべ、勝ち誇ったような顔で私に視線を返した。


「姉だもんな!分かってくれるよな!」


 私は何も言わず、部屋を出た。

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