第7話
ディアスとゲーティアの男二人組は洞穴の入口に背を向ける形で座り、森に注意を払っいつつ、話に参加する形。
洞穴の中と言える部分の最奥にワンス。
その両手前にソニアナとティアが座り、体を休めつつも気持ちは張る。
そんな配置で、男たちは警戒しながらの『ワンス主催の説明会』が始まった。
「まず初めに俺は《ワンス》ではあるけれど君たちが知る《ワンス》とは言えない。」
「「「??」」」
「どういう事かしら?」
首を傾げる一同。その中でティアだけが疑問を口でも問い掛けた。
「俺はずっと先の未来のワンスだ。」
「「「「???」」」」
今度は誰も口を開かずに首を傾げる。
森を注視していたはずの男二人も顔だけではあったがワンスの方へと振り返った。
「そして、俺は《ワンス》であると同時にもう一人の人間でもある。」
「「「「????」」」」
揃う首を傾げる仕草に思わず笑いが零れそうになるワンスであっだが、辛うじて堪えるのに成功。僅かに頬を引くつかせながらも真顔を維持したまま話を進める。
「俺は一度、ソニアナとゲーティアと共にイチから拠点を作り、街を作り、国を作った。それと同時に俺はもう一人の俺として別の世界でも生活していたんだ。
そんな二つの生活を送っていたんだが、気が付けばあの平原に立っていた。」
「「「「・・・・・・」」」」
四人の様子を一言で言うならば『理解不能』。
それは表情からも、雰囲気からも感じ取ることが出来る。
一旦話を整理させて順序よく事細かに説明していくのが理想ではあるが、今回のこの話については整理も理解も中々にしづらい。
よって、ワンスは勢いを止めることなく全てを話す。
一度は国まで作った事。
様々な人が集まり協力した事。
その中には他種族もいて、ティアとディアスもいた事。
皆協力して信頼出来ていた事。
それと同時に別世界、日本での生活の事。
【ワンス】では無く【吉田一誠】と言う名前だった事。
日本での生活の様子。
どんな仕事をしたか。
それら全てを、全部を止める事なく話切り、四人の反応を見やる。主に『不信感』や『反抗』、『敵愾心』に注意した。
当初は全てを話すつもりは無かった。しかし、全てを隠し、『ただのワンス』としてディアスとティアの二人を知っている事をどう説明するかで行き詰まった。
どう考えても話に説得力が無い。
ならば、と。
いっそ全てをぶちまけてしまう方がいいのではないだろうか?そんな風に思えた。
一度思えばそれしか方法が無いように思えて来て――――結果。今、という事になる。
そんなこんなで、質疑応答。
四人からの質問に答えて行く形の話し合いでは、本人が納得出来るまで事細かに説明をする。特に【ワンス】と【吉田一誠】が同一人物だと言う部分は、力を込めて説明した。
【ワンス】では無い『別人』と判断された場合。即、『敵』と判定はされないかもしれないが、今後の生活、活動においては少なくない支障が出るのは容易に予想出来た。
だから、ワンスは必死に四人に言い聞かせた。
しかし、ワンスが【ワンス】であったとしても、【吉田一誠】と言う人生とその世界の環境や常識もあるので言動にどうしても影響がある。本来は逆、ワンスの言動の方が【吉田一誠】に影響を与えているにも関わらず、『嘘』とも言える話を『予防線』として張り、今後の【ワンス】の不自然さを緩和しようとしたりもした。
「とても信じられない話―――ですな。」
「そぉ、ですねぇ。ワンス様の仰る事ですし、信じたいのは山々なのですけど・・・。」
「私は色々と納得出来たわね。
ディアスもそうじゃない?」
「ああ。そうだな。」
納得した、出来てしまった魔族二人。それに反してイマイチ信じ切れず、納得出来ていない人間の二人。
自分の忠誠が『その程度』と、言われてもいないにも関わらず、バカにされた様な感覚に勝手に陥り、憤るソニアナ。
それを察しながらも少なからず同じ気持ちになっており、気落ちして何も言わないゲーティア。
そんな四人の溝。
魔族二人にとってはそんなつもりは微塵もない。そんな事よりもワンスの説明に納得し、気持ちがひと段落。気になっていた事が解決した安堵を感じていた。
ソニアナはバカにされたと思い込んでしまい頭に血が上ってしまた。ゲーティアはソニアナと少なからず共感したことで、彼女への同情とそんな自分への不甲斐なさを感じていた。
そんな戦いに身を置く面々がワンスの現実離れした話に気を取られ―――――。
シュン!!
「ガっ!?!?」
「「ワンス様!?」」「「陛下!?」」
ワンスの真正面、左肩へと深々と一本の矢が突き刺さった!
「詠唱するわ!ディアス!」
「ああ!」
双剣を素早く抜きながら立ち上がり、矢の飛んできた方向―――森を睨みつける。
「ワンス様!」
「ソニアナ嬢!迎撃だ!急所は外れておる!!」
ワンスへと駆け寄り、安否を確認するソニアナへと怒鳴り、ゲーティアもディアスと同じく森を睨みつけた。
ティアはディアスを呼び掛けると、宣言通り即座にマナを練り上げ詠唱を始める。遅れてソニアナもあたふたと矢をつがえ、注意するもワンスが気掛かりとなっていて集中出来ずにいた。
「全く。ワタクシともあろうものが。
急所を外してしまうなんて――――情けない!」
オーバーリアクション。とでも言えばいいのか。
額に手を当て、「ヤレヤレ」と残念そうに首を振りながら森から出てきたのは・・・。
「魔族!」
「いやいやいや、そちらにもいるじゃありませんか。」
槍を握る手の力に一層力を入れて声を張るゲーティアに軽く答えた《魔族》。
「なん、で、こんな、ところ、いるんだよ・・・・・カーディス・・・!」
「おや?おやおやおや?何故ワタクシの名を知っているのでしょうかね?そこの下等生物は。」
ヂクヂクと痛む左肩をどうにか誤魔化そうと右手で強く掴み、現れた魔族へと問い掛けたワンス。
それを不思議そうに、そして不愉快そうに冷めた目で見る魔族カーディス。
「しかも・・・・何故貴方達はそちら側に居るのですかね?ディアス?ティア?」
「アンタには関係、ない、でしょ!!!」
練り上げたマナを《フレム》として怒りを込めて放つ!
その影に隠れる様にしてディアスが斬りかかった!
「随分な挨拶ですね?
ディアス。貴方もそう思いませんか?」
悠々と問い掛けるカーディスは瞬時に練り上げた僅かにマナを使って小さな《アトア》と呼ぶ《水の繰術》を放ち勢いを削ぐと、残った《フレム》は邪魔だとばかりに手で払い完全に消し去る。
その影に潜んだディアスの両の手から放つ連続の剣撃はひらりひらりと躱す。
その様には完全に『余裕』が見て取れる。
「ヌゥアァ!!」
ディアスの剣撃の隙間から槍の突き!
剣撃の隙間を上手く潰す様に放たれた連続の攻撃も難なく避けていく。
「ふぅ。邪魔です・・・ね!」
又もや瞬時にマナを練り上げる。
体を動かしながらのその行為は通常は超高難易度なもの。それを息を吸う様に行い・・・・そのまま周囲に解き放つ!
「ぐぅ!」「くっ!」
「燃えなさい!!」
二人が強制的にマナの勢いだけで離された。その瞬間の隙にもう一度放たれたティアの《フレム》。
そして、違う方向からはソニアナの矢が――――
「無駄です、よ!」
また、ただのマナを周りに放つ。
ただそれだけで《フレム》と迫る矢は弾かれ、《フレム》はあらぬ方向に、矢は地面へと落ちてしまった。
「ったく、序盤じゃ、出てこねぇだろう、が!」
文句を垂れるワンスは痛みに震えながらも足に力を込めて立ち上がる。頭の中は痛みでいっぱい。
どうにか痛みを頭から追い出し、《指揮》を取ろうとする。
「大人しくしててくれませんか?
面倒事は嫌いなのですよ。ササッと終わりたいんですよ。」
姿を表した時の様にオーバーリアクションで感情を表現するカーディスに怒りを込めた目が五対。
しかし、いくら怒りを込めようとも、いくら睨みつけようとも、その実力差は明白で埋まるはずもなかった。
《魔族》の王。
その直属の部下であり、暗殺系統を極めたとされる実力者。
影のカーディス。
【戦乱魔界】の最終局面間近で戦う『ボス』の一人。
決して、ワンスの感覚で『序盤』と言える今、勝てるはずもない相手。
「ふむふむ。本当に敵対していると、考えてよろしい様ですね?」
「!?」
同じ魔族であるディアスとティアには遠慮をしていた。何かしらの作戦で寝返ったかの様に振舞っているのかと勘ぐっての遠慮。しかし、そんな雰囲気を感じることが出来ず、本当に寝返ったと判断したカーディスは反応さえ許さない速度で横薙ぎに蹴りを放つ。
ディアスは成す術もなく吹き飛ばされ、森の木々を幾本か薙ぎ倒しながら消えていった。
「貴方も邪魔ですよ?」
片手間。
軽く手を払った。
たったそれだけの事だったにも関わらずゲーティアの体は回転を伴い宙を舞う・・・。
地面へと叩き付けられ、転がされ、意識は遠のいた。
体の節々から訴える強烈な痛み。それらが辛うじて彼の意識を繋ぎ止めるが、だからと言って体を動かす事など出来ない。
それどころか声を上げる事すらままならない状況に追い込まれてしまった。
「いい加減にしなさいよ!!」
三度目のティアの《フレム》。
それは一度目、二度目よりも大きく、高い熱量を含んでいた。
が
「いい加減にするのは貴方ですよ。」
最初の奇襲以来使わなかった弓。
それを矢もつがえず引き絞り、放つ。
放たれたのは『風』。
《操術》である《ウィン》と《弓術》を組み合わせたもの。
それは、ティアの放った《フレム》に命中。その瞬間にティアの放った《フレム》は霧散されてしまう。それでも、カーディスの放った《ウィン》は勢いを止める事なく突き進み――――。
僅かに起動を変え、ティアの体の腹部に命中。洞穴の壁へと簡単に吹き飛ばした。
後ろ側の全身を強く打ち付けたティアは呻き声を上げる暇もなく意識を刈り取られてしまった。
通常ならば即座に《指揮》をするワンス。
しかし、今現在の状況は矢を受けた痛みによって頭の回転は著しく低下。その痛みを抑え《指揮》をしようとするも中々上手くいかない。《指揮》を発しようとすれば一人倒され、また《指揮》しようとすれば一人倒され―――――一度も《指揮》する事無く残り二人。ワンスとソニアナだけになってしまった。
「さて、そろそろ諦めましたか?王子様?」
丁寧に、しかし貶すように身振り手振り付きでワンスへと問い掛けるカーディスのそれは、まるで道化の様。
痛みで回らない頭を必死に動かすワンスと圧倒的な実力差に打ちのめされ呆然とするソニアナ。
それは『絶対絶命』と言って差し支えない状況。
そもそも何故
それを考えたところで、例え答えが出たところで、状況の改善には繋がらない疑問へと行き着いた。
否、行き着いてしまったワンス。
起死回生の一手は遠く、微かにすら見えないでいた。
「終わり、か。」
『諦め』の感情が腹の下からゆっくりジワジワと這い上がり、体全身の力を奪い去っていく。
起死回生を願い、回転する頭も鈍くなりズキズキと傷んでいたはずの肩の傷さえも認識できなくなる。
完全に頭は『諦め』と『負け』。
そして。
『死』を感じていた。
「(訳も分からずにこの世界に来て、死ぬ。――――あぁ。死ねば元の日本に戻るのかな?そうかもしれないな。そうすればこれは夢かゲームだったという話で笑い話になる。
)」
次にワンスの頭に芽生えたのは現実逃避した様な楽観的な思考。
だが、【吉田一誠】や他のプレイヤーが遊ぶ仮想現実のゲームでは『痛み』は無い。精々が強めに叩かれる衝撃を感じる程度。
どんな種類のゲームであったとしても思考が鈍る程の痛みを感じることは有り得無い。
そこに思考がキチンとたどり着ければ、この世界が現実の世界であり、もう一つの世界だと分かったはず。
この世界は実在するただの『異世界』だと。
「あぁ!分かってくれたのですね!
有難うございます!これで帰れますよ!」
本当に、本当に嬉しそうに笑みを浮かべ話すカーディスの声。
その声を聞きながらも聞こえないワンスとソニアナ。意識は遠く、それはまるで夢を見ている様な感覚であった。
「帰るのは勝手だけど、そいつをどうこうするのは勘弁して欲しいね。」
「あ゛ぁ?――――誰ですか?」
「はっは!一瞬化けの皮が剥がれたぞ?
取り繕った気色悪い話し方よりさっきの方が良かったのに・・・・。」
意識を失い、あちこちから血を流すディアス。
そんな彼を肩に軽々と担ぎ現れた。
「貴方とは話しが合いそうにありませんね。」
「お前と話が合うやつなんていんのかよ?」
「―――――。」
ギリギリと歯を噛み合せ、射殺すとばかり睨むカーディス。
「あ~、そこの・・・名前知らねぇや。
お二人さん。手ぇ貸すぜ。」
「そん、なに、気楽に、相手出来る、奴じゃ、ねぇ、ぞ?」
「こっちの心配より自分の心配しな。
おい、嬢ちゃん。そいつの傷、手当できるかい?」
「え?え、えっと、は、はい!」
「んじゃ、頼むわ。」
口調は荒く、風体も綺麗とは言えず、どちらかと言えば小汚い。とてもでは無いが何かを頼るのは想像出来ない。それよりも頼られる事の方が容易に想像できる。
しかしながら、纏う空気は重く鋭い。
歴戦の強者を彷彿とさせる彼女。
「とっとと済ませる。」
「『とっとと』?ワタクシを、誰だと・・・!」
戦略的な知恵や知識、既存の戦力では絶望しか見えていなかったワンスたちに。
『運』が味方する。
「(どうにかなる、か?)」
その『運』は果たしてどの様な結果をもたらすのか。
「ワンス様!動かないで下さい!治療が出来ません!」
バカにされ、激昴するカーディス。
不敵にニヤケ、どこか余裕すら感じさせる女。
カーディスは弓を、女は拳を握りしめた。
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