2・提訴活動-2[内容証明行方不明]

友人や仕事先出版社の担当者さんに相談したところ、口を揃えて「少額訴訟」を薦められた。


六十万円以下の請求の訴えなら、少額訴訟で訴えるのが定例のようだ。

調べたところ「支払督促」というのもあるそうだか今回はあまり向かないようだった。お手軽度は高いが、相手が抵抗すると控訴されやすい。控訴されると通常裁判になってかなり面倒と時間がかかるそうだ。


少額訴訟を裁判所に申し立てる前に「内容証明」を…請求勧告を内容証明で送る。


内容証明は書留の上位版で、郵便局で出した書類のコピーを保存してくれるサービスだ。

第三者として「書類を出した事と内容」を保証してくれる。

内容証明で出した請求勧告に強制力はないが、相手に精一杯請求をしたという確たる証拠になる。裁判でもかなり強力な証拠だ。


ただし内容証明も裁判も住所と本名がわからなければ使えない。だが住所はTwitterで本名はPayPalで手に入れている。

新居のチラシのつぶやきはよく見ると一年と少し前だった。消し残っていた過去ログを見たタイミングが良かったのだろう。逆に最近のつぶやきが消されていなければ見つけられなかったかもしれない。


そして「e内容証明」という郵便局のサイトで、ネット経由で行えば二百円くらい安くできる!その上24時間外出することなく受付可能!!という便利なサービスを見つけた……が、全く使えなかった。


まずログインしても操作画面が変わらない。

もう一度登録したIDとパスワードを入力すると「ログインされています」と表示される。しかし操作画面は見当たらない。


原因は広告防止のために設定していたポップアップ禁止。

操作入力画面が別のウインドウで表示されるのだ。これを解除しないといけない。

だがログアウトのボタンが見当たらない。表示されていない操作ウインドウにあるからだ。何もできない。自動ログアウトまで30分待たないといけない。


30分後。


今度はポップアップ禁止を解除しログインしなおして、送信先等を登録。

だが肝心の書類が登録できない。サイトにある雛型テンプレートを使用したはずなのに…

これは編集するソフトが限定されていてWindows10なら「Microsoft Word2016」しか対応していない。


アマゾンで探すと3万だった。生産終了でプレミアが付いているのだ。

他にネットで探すと無料…というのもあったが、合法だろうか?法の訴えをするのに、違法(かもしれない)物を使うのは気が引ける。

合法でネット上で無料フリーで使える公式のソフト Microsoft Office365のWordでファイルを作ったが駄目だった。


4時間ほどパソコンの前で試行錯誤した後に諦めた。こういうのを「心折設計しんせつせっけい」というのだろう。


Wordで作った文書を 送る用、郵便局用、自分用の3通をプリントアウトし、

郵便局から送ることにした。


内容証明は書式が厳密に決まっていていて、1枚に横書きの場合は1行26文字以内の20行以内でなど細かいルールが決められている。その中に日付、相手の住所氏名、僕の住所氏名、請求勧告内容と金額を書く。

というのを郵便局で初めて知ったので一度家に帰って書き直してきた。


念のため請求書をプリントアウトしたものも書留で送っておく。

昔は同封出来たそうだが、今は出来ないとのことだ。保存する文書の量がキリがなくなるからだろう。


内容証明を対応している大きい郵便局にいき、奥から上役らしきおじさんが出てきて、内容証明の審査が始まった。

20分ほど待つと受付手続が終わった。慣れない作業だったが、局員のお姉さんは優しく対応してくれた。辛いときの優しい対応は心に染みる。


翌日発送履歴を見る。

書留と同様に内容証明も郵便局のホームページから追跡ができる。

無事受け付けられた郵便局から発送され、相手の住所の担当者郵便局に「到着」の表示。

あとは「お届け済み」の表示を待つだけだ。早朝に到着しているなら、昼か、遅くても夕方には相手に届くだろう。


しかし表示は変わら無かった。

そして夜には「転送」の文字が表示された。


Twitterに載せてたチラシで住所は確認できたが、部屋番号は載せていなかった。

局員さんが別の郵便物を届けたことがあれば、部屋番号がわからなくても届く可能性があると思って部屋番号は書かずに出したが、甘かったか?


このまま返送されるのだろうかと心配していた翌日。

発送した郵便局ではない別の場所へ「転送」されていた。県外の郵便局だ。


この県は、藤沼氏の実家の住所のある場所だ。

「なんで?」

自宅に郵便物が溜まるのを嫌って、実家に送っているのだろうか?


だか問題は、藤沼氏に届くかどうかだ。

僕が送った手紙を藤沼氏が確認できれば問題ない。


配達履歴に「お届け先にお届け済み」の表示を確認した後、久しぶりに藤沼氏のTwitterを覗きに行った。


『マジでやるかよ。執念ヤバイな。』

『売れない人に関わると面倒だね。ヤダヤダ』

『無視し続けると、どうなるんだろうねぇwww』


煽りと共にご報告ありがとうございます。


ちょうど到着した直後にツイートされていたので、藤沼氏に届いたことは確定だ。

心のどこかで相手の反省を願っていたが、反省どころか5日の猶予は長すぎたようだ。

にしても反応早いな。実家から連絡が来たのだろうか?


他のツイートを見てみると、どうやら実家に帰っているようだった。

同人誌の在庫の野焼きなど東京のアパート暮らしでは、まずできない。

少なくとも、藤沼氏の借りた物件では無理だろう。


件の伝染病は収まるところを知らず、世の中は緊急事態宣言で外出自粛を強いられている。

東京は特に感染者数が多い。不要不急で県を跨ぐことは禁止されていた。

単身赴任のお父さんや遠くの大学に通う子が帰省出来ないというニュースをみたが、先日それが一時的だったが解除されていた。その県外を跨げるチャンスに東京から脱出する人も多かったと聞く。

藤沼氏もその一人だったのだろうか。


ともかく届いたのであればパイプは繋がった!


「無視するとどうなるか?」


そんなのお望み通り「訴えられる」に決まっているだろ?


少額訴訟は 双方の同意 がなければ行えない。

相手の同意がない場合通常訴訟でないと訴えることが出来ない。

一度の短期間で済む少額訴訟に比べ、通常訴訟は数度の審理と時間と多くのストレスがかかるため、審議中に疲れて訴えを取り下げるケースも多い。


少額訴訟も控訴されれば通常訴訟に移行されるが、少額訴訟は証拠と共に訴えるのだ。

こちらの訴えを退けるような理由を藤沼氏が用意できるとは思えない。

藤沼氏の現在の主張は

『予想した売上がなく、利益を得ていません。よって支払い義務はありません。』

なんて契約時にない想定売上と減額申請、少なくとも2万の金銭利益を得た状態で言っても説得力はない。


『少額訴訟を起こせばいい』と言った藤沼氏は「同意」をしている。

僕に都合の良い少額訴訟に既に自分から同意しているのだ。

少額訴訟起こす条件は「双方の同意」の他に「訴える相手に郵便物が届く住所」が必須だ。

相手に手紙が届いたのであれば、訴える事のできる条件は揃った。


藤沼氏が相手を下に見る人物で助かった。ここで確定できねば、二の足を踏んでいたかもしれない。

アカウントに鍵もかけずあれだけ煽ってくれているのだから答えてあげねば。


このまま進めるとどうなるか、僕も気になっているのだから。

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