第12話
この世界に来てからの旅は本当に初めての連続だった。
まず、夜がこんなにも暗いだなんて初めて知った。
現代人の勇人にとっては暗くなれば街頭がつくのは当たり前だし、家々やマンションから明かりなどいくらでも漏れてくる。夜でも明るいのが常識だった。
それなのに、ここでは日が暮れると、本当に真っ暗になるのだ。一寸先どころか、自分の手すら見えない。
自然と馬車で進むのは日があるうちになるし、野営の準備のため夕方になる前にはテントなどを張り終えてなければならない
しかも地面は平らではないのだ。当たり前だがアスファルトで固められた道路などないのだから。道といえば良くて木々や草を切り落として石を敷き詰めたものか、悪ければ人の足や馬車の車輪などで踏み固められたところが道だったりする。
当然テントを張っても下はデコボコだし、そんなところで寝れば、身体の節々は痛くなる。
ちなみに女子であるクリスとユーフェミアとは当然のごとくテントは別で、あちらはものすごく豪華で、下には敷物を敷き詰めて寝るときも快適そうであった。
差別だった。九煉などネコである身を利用して、悠々と女子のテントの中に忍び込み、エンジョイライフをすごしているというのに。呪ってやりたいぐらいだ。まさか畜生相手に焼餅をやく日がくるとは思わなかった。
あちらは侍女であるユーフェミアがテキパキとなんでもしてくれるが、こちらとしてはすべてが初めて尽くしなのだ。
テントを組み立てるのも四苦八苦しているうちに、有能なユーフェミアは、テントの組み立て終え、手ごろの石で竈をつくり、火打石で火をおこし、薪を集め、水の調達し、ハンティングをして手ごろな獲物を狩ってくることもしばしばであり──ちなみに、獲った野うさぎのような獣を前に白いエプロンをして肉切り包丁片手に、毛皮はぎ、血を抜き、内臓を取り出しているさまなどは、頬に飛び散った血も相まってスプラッタ映画の女優のようにとても似合っていて、震えるほど怖かったのだが──いや、話がずれた、とにかくこっちが苦労しているのを尻眼に、食事の準備までを終えているのだ。
それでいてこちらを手伝ってくれる素振りもない。かろうじて食事の相伴にはあずかっているが、それだけだ。ことごとく冷徹に無視をしてくれる。
クリスにいたってはこちらを見て鼻で笑う始末だ。
──そんなことも満足にできないのか、さすが下民だな。
そう言われているようで腹立たしいやら、惨めやらで、悲嘆にくれそうになった。
こんな惨めな勇者などいてもいいのだろうか。いや間違いなくダメであろう。思い出すだけで涙がでそうになる。勇人は上をむいて零れ落ちそうな涙をこらえた。
そして、なんとかテントを日が暮れる前に組み立てられるようになってきた三日目のことだった──
──この旅、最大の危機が訪れたのだ。
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