2 勇者
勇者ソラリス。『
その超然たる美貌は
魔王を討伐すべく、天より遣わされた
魔王軍と王国軍の争いが総力戦の様相を呈する中、勇者は少数精鋭で魔王城に潜入すべく腕の立つ戦士を求め、各都市を歴訪していた。
勅命により白羽の矢が立ったのが、大公の娘であり剣の天才と謳われ美姫ラータだった。
大公は簡単に承諾しなかった。シグとの結婚を控えた愛娘を死地に送り込むなど、王命とはいえ正気の沙汰ではない。せめて勇者の実力を示すよう要請した。
――常に雷鳴轟く、険峻なる
勇者はそこに住まう竜王をいとも簡単に打ち倒し、強力な魔力の檻を作り出し竜王を生け捕りにすると、城塞都市に凱旋した。
都市の中心、群衆をはるかに見下ろす大公殿のバルコニーで、勇者は碧水晶の大剣を天空に突き上げる。
そこから吹き上がった凄まじい魔力の束が天を貫き、曇天を真っ二つに突き破る。割れた天から溢れるまばゆい輝きが都市を照らし出し、その神話の如き光景に群衆は熱狂した。
試練に同行したラータと大公の様子は、一変していた。
ラータは瞳を潤ませ頬を朱に染め、うっとりとソラリスの偉業を凝視している。実力に偽りあらば斬り捨てるとまで言い放ったかつての姿は、微塵も存在しない。大切な恋人であったはずのシグの事も、もはや心の片隅にも残っていなかった。
大公も涙を流し、救世主たる勇者の出現を祝福した。
勇者出立の日。
何度目かのシグの面会要請を却下した後、旅装束のラータが艶やかにほほえみながら、大公に進言した。
「おとうさま。シグが邪魔なの。始末しましょう」
「ああそうだな。シグは邪魔だな。始末しよう」
大公も微笑みを返した。
狂気に満ちた会話が、当然のように交わされる。
この時すでに、王国は勇者の、神の権能に支配されていた。
誰一人、過ちを過ちと思う者はいなかった。
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