第22話 第1次絵文字色変事件・ダイアモンドが青色に!

  スマートフォンの絵文字について言及してみよう。


 ダイアモンド、と文字を打つと、絵文字の候補にはどの様な色と柄のダイアモンドが出現されるのだろう。

 それは、機種によって異なると思われる。

 ただ1つだけ、とか。3種類異なる色や柄が出ますとか。


 それは、通常固定されていると思われる。

 色や柄がある日いきなり変更されたり、何も対策をしなくても自然に元に戻ったり、その新旧2種類が同時に現れて同時に使え、しばらく経過した後に旧タイプに戻ったり……など、通常頻繁に変わったりはしないと思われるのだが、如何なものなのであろうか。



 女にとって、事件が起きた。      

 それは6月下旬にA氏がと自己申告した翌日の事であった。


 A氏のプロフィールページには、女から見て、ピンク色のダイアモンドが使用されていた。ピンク色の線画で、中は塗られていない。

 A氏は、シフトした翌日の夜、初めてSNS内でDM(メッセージ)を女に送り、双方の相互確認を試みた。


 その日の夜に、女は違和感を感じた。昼間はいつもと変わらなかった。

 

 (あれ?なんか変だな。画面が変な感じ?どうしてかな?)

 女はDMの画面を注意深く眺めた。

 すると、DM画面では、やり取りする相手側のプロフィールページのアイコン等が反映されているが、その色調が変わっている事に気が付いた。

 しかし、不思議な事に、女のスマホのメール通知欄には、A氏のピンク色のダイアモンドを使用したプロフィール画面の反映がなされている。


 女はSNS内のA氏のプロフィールページへ跳び、確認した。


 ダイアモンドが薄い青色に変わり、線画ではなくダイアモンド内部まで彩色されている。キラキラと呼んでいるマークも大分変わっていた。


 (きっとAさんが変えたんだよね?メール通知欄にはまだ反映されてないだけかな?)


 女は所謂機械オンチであった為、通常よりも携帯やスマートフォンの扱いに疎かった。自身のパソコンも保持しておらず、闇雲に職場の医療事務用パソコンをなんとなくで使用していた。


 そのA氏とのDMで会話をしている内に、プロフィールページのダイアモンドの色が変わったとの内容に入った。


 実はA氏がマンデラエフェクトを体験した日が女の2日後であった為、女は同期入社の様な親近感を感じていた。

 同期入社の新入社員としてスタートラインは変わらなかったが、リアル社会と同じくネット社会に於いても、その後の生き方によって8ヶ月も経過していれば、相当な実力差が現れる。


 「Aさんのダイアモンドが青色に変わりましたね?」

 「え?元からダイアモンドは青色だけど?」

 

 女は一瞬意味が分からなかった。確かに女のスマホ画面には、ピンク色のダイアモンドに見えたのである。


 「私にはピンク色だったの。でも、Aさんのダイアモンドが……いきなり、あっ、私の打ったダイアモンドが青色になってる!」

 「いや、それ元から青色」

 「違うの、私のはピンク色だったのに!私のダイアモンド、って!私のも青になっちゃった!」


 女は焦った。午前中には普通にピンク色だったダイアモンドの絵柄が、突然青色に変化したのである。



しかも、確定入力する前に、スマホ画面下部に候補として挙がるダイアモンドの色は、女が普段使用しているピンク色の絵柄が見えているのだ。

 それを打って確定すると、A氏の言っている『自分のプロフィール画面には以前から青色のダイアモンド』に変わってしまう。


 女は逐一報告し、しまいには候補画面にはピンク色が、確定入力後にはピンク色と青色両方のダイアモンドの絵柄が表示される様になってしまっていた。


 「ねえ、ちょっと見て!ほら私のダイアモンド、って打つとピンク色と青色が両方出てる!Aさんのは元々青に見えていたんだね!ほらスクショ画面!」


 女は興奮していた。目の前で実演されたマジックのトリックが解らないと騒いでいるテレビ番組のタレントの様だ。


 マンデラ社に同期入社の期待の新人は、この8ヶ月の間に女には想像も出来ない程の情報収集を行っていた。

 ネットは勿論の事、関係有りと判断した本などを読み漁り、自分自身の状況を把握していた。

 同じ8ヶ月の間に日々を嘆き悲しみ、挙げ句愚痴を呟き嫌悪感丸出しでSNSを利用していた女とは雲泥の差が開いていた。


 「女氏がAの所へ来たね。波動が強い方へ引っ張られます。波動の強い、良い方とやり取りして下さい。見違える様に世界線が変わるから」


 A氏のアドバイスを受けた女であったが、元々マンデラエフェクト体験後、女は情報収集など行っていないのに等しかった。A氏の発言もアドバイスも字面を追うだけで精一杯である。

 A氏の他にも様々な先輩達が女に多種多様なアドバイスを授けても、基本情報も何も得ようとしない女には豚に真珠の如く虚しかった。

 

 女には、A氏の世界線へ移動してしまったと言う意味が分からなかった。


 「明日、レセプト発行しなくちゃならないのに、職場が無かったらどうしよう!朝、出勤して、職場が有るかな!」

 確かA氏が元居た世界線は、女の勤務しているクリニックが閉院する為、異なる世界線の女は書いた経験の無い履歴書を書き、就職活動に臨むと言っていた。

 おかしな話である。A氏とやり取りしている自分が何処に存在しているのかさえ判らずに、女はA氏が「Aの所へ来た」の一言で、自らがA氏の元居た世界線へと移動してしまったのでは、と、誤解をしたのである。


 「大丈夫。職場は有るよ。仕事も大丈夫。出来るから。Aなんか毎日毎日が変化しているよ。毎日大変だけど、慣れるもんだよ。毎日勉強だけどね」


 女には、「毎日が変化、毎日が勉強」の文字の意味など理解出来るはずもなく、ただひたすら目の前のダイアモンドの絵柄と色が変化してしまった、と騒ぐ事しか仕様がない程余裕が無かったのである。



 かくして、初めてのスマホ画面の異変は約半日で収まり、女は低い胸をなで下ろしたのであった。


 これを第1次絵文字色変事件と命名する。

 

 この色変事件は1度では収拾が付かなかった。



 



 

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