第21話 性別不詳なマンデラー・どこまでの情報が同じ?異なる?

 女が以前に相互フォロワーになったB氏は男性であった。

 そんなに頻繁にやり取りをしていなくとも、タイムライン上に上がってくる記事やリプを目にして、B氏の存在を再確認し、状況を把握したり情報を見て女は楽しんでいた。


 ある日、B氏は「クォンタム・ジャンプ」なるものについて呟いていた。              

 方法と言うべきか。導入や離脱に関する情報も記していたが、女は自らが影響を受けやすいのでは、と弱気になっていたので、結局は試さずにいた。


 (えええ……そんな事やったら、また色々な場所へ跳ばされちゃうよ?戻れなかったら、どうするんだろう?あ、別の場所へ行きたいのかな。どちらにしても私には危険だと思うから、やらないでおこう。Bさん、凄いな。勇気あるなあ) 


 その前後であったであろうか。女が「この歳、53歳にして、1度も履歴書を書いた経験が無い。社会人として情けない。こんな事は、有り、だろうか?」といった主旨の呟きをSNSに挙げた。

 すると、B氏は、自分は様々な職種のアルバイトや職業を経験して来たが、いずれも短期なケースが多いとの事。女が34年間、ずっと1つの職種で同じ職場で労働している事に意味が有り、信頼度も増すのではないか、と意見を寄せた。


 そこで女は、様々な職種を経験しているB氏を素晴らしい、人生経験が豊富で、人間的に幅が広がり、知識面でも情報量が段違いではないか、と返した。


 このを踏まえて、この度の出来事を記そう。


 このやり取りからしばらくは、お互いに姿を見ない様だと思っていたかもしれない。


 この「そういえば、最近見ない」がある種のサインなのであろうか。

 久しぶりにお互いが再び触れ合う時、記憶に何らかの齟齬が生じるケースが多発すると推測される。


 しばらく見かけなかったB氏のユーザーネームが……名前が僅かに変わり、性別までもが変わっていた。女性になっていた。


 名前は漢字に点が有る無しの微妙な違いである。あまり気にはならなかった。が、性別になってくると話が違う。些か違和感が生じる。


 確かにB氏は、男性であった。

 容姿も本名も不明なSNSに於いて何を言うか、と思われるだろう。

 単に性別や名前の記載を変えただけならば、それはそれで構わない。

 B氏はその他に、A氏が発言していた同内容の「クリニックが閉院するので履歴書を書いた」女を知っていたのだ。


 しかも、最初から女性だったと言う。男性ではなかったと。

 その上、女が近所の人に頼まれて、たった1度だけ行った家庭教師のアルバイトまでを知っていた。


 但し、こちらにも幾つかの相違点が存在する。


 男性B氏に伝えた事

 高3時代に近所の中3男子


 女性B氏の記憶

 女の大学時代に近所の女の子


 これを知った女は、A氏に次ぐ新たな証言者が現れたと悟った。女は大学には行っていなかった。



 女はB氏の名前が微妙に異なること、性別が違うこと、履歴書はまだ書いた経験が無いことをB氏に伝えた。


 するとB氏は、更に驚く発言をした。


 「女氏がマンデラした初期に、パニック状態になり、マンデラーの中で一番最初に自分を選んで相談の為にDMを寄越して、それを受けたが、そのやり取りが全て消えている」と。


 女には、身に覚えが全く無かった。

 しかし、相談を持ちかけた事には頷ける。


 確かに、B氏は懐の深い落ち着きのある人物だった。女より年下ではあるが、どう考えても女の方が未熟で、年下の様であった。


 女には、他の年下のマンデラー達が全て頼もしく見えた。実際には会った事のない彼らを、とてもしっかりしていて:冷静沈着で、聡明だと感じていた。


 女がマンデラーとなった初日に行った事と言えば、先輩マンデラー達に食い下がり、SNS内に存在していた僅かなリア友と、見知らぬフォロワー達に女の現況を知らせるべく、騒ぎまくった事であったのだ。


 とても静観などはしていられなかった。女は自分の状況を内外に知らせ、何とかして情報を得て、自らの進退の突破口を他力で開いて貰おうと無我夢中であった。

 しかし、女が取ったその初期の行為は次々起こる不幸な出来事と共に自らの首を軽く絞める結果となった。



 女はSNSに存在する先輩マンデラー達の助けにより、何とかリアル世界の生活を維持する事が可能であったと言っても過言ではない。


 マンデラエフェクトに遭遇してから、次第に女の初期の頃を知り得ている先輩マンデラー達がA氏、B氏の他に出現するのはもう少し後の事である。


 その詳細は諸事情により省かせて頂く。



 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る