第15話 何かがおかしい、悲しい毎日

 従姉妹の急死の次は、クリニックに於いて外来、在宅共に最長老の102歳、107歳の患者が相次いでの他界だった。年相応と言われればそれまでだが、偶然にしてはこうも次から次へと続く訃報に、女は軽い鬱になりそうだと不安を覚えるのだった。


 新種の感染症もじわじわと周りを固めて来た。緊急事態宣言が発令されて、不要不急の外出を避ける様に屋外のスピーカーから毎日定時にアナウンスが流れる。それを聞き流しながら、後期高齢者たちはどこ吹く風で元気にグラウンドゴルフの練習を集団で行っていた。市町村が運営している運動場は借りられない為、個人的に借りている運動場に集中していた。

 

 

 またそれとは別に、1月下旬から2月下旬に連続した近隣や隣県の大規模な山火事発生が追い打ちをかけ、まさに大規模な山火事発生中に愛猫が突然死してしまった。あと3ヶ月で14歳になる所であった。

 


 毎日毎日早朝から夕刻まで、消火活動応援の為の防災ヘリが頭上を行き交う。患者たちはこの歳まで生きているが、この様な酷い有様は見た事が無いと口々に言っていた。

 近隣での大規模な山火事は、4月になっても発生した。その時には、遠縁の現在は空き家となっている家が全焼した、と耳に入った。引っ越しをしてしばらく経つが、住んでいなかっただけ良かった、と話していた。慰める言葉も出なかった。


 何かがおかしい。


 何かが狂っている。


 何故自分はここにいるのか。


 何故躰が違うのか。


 何故二点しんにょうなどが存在するのか。

 何故心臓がど真ん中にあるのか。


 何故従姉妹や愛猫が突然死したのか


 何故何故?


 一体何が起きて自分がここにいるのか?


 こちらに来なければ、猫も死ななかった?従姉妹も死ななかった?

 近所の高齢者も亡くなった。


 マンデラ体験をしてからというもの、入って来る知らせは悲しい出来事が殆どだ。嬉しい知らせなど皆無に等しい。


 帰りたい。以前のなんでもなかった世界線へ帰りたい。戻りたい。なんでもなかった事があんなに幸せだったなんて。知らなかった。


 SNSでは:見た事も無い極彩色の植物や昆虫、動物たちが日々発見されているが、そんな事はどうでもいい。


 世界地図や日本地図が日々変化しているらしいが、自分には全く影響が無い。それこそ遠い世界の話の様だ。


 何故こんな世界線ところに来てしまったんだ。


 いや、自ら選んで来たわけでは決してない。



 女は、まるで自分が首根っこを軽く掴まれて、ひょいと扉を開けられ、異なる世界線へと強制的に放り込まれた感覚に陥っていた。


 理不尽な仕打ち。自らの意思ではなく、まるで脳移植をされたかと思う程の躰との違和感。病を得た身。


 自ら望んで来たわけではない。外部から何らかの力が加わっているとでも言うのか。


 


 次第に女はあらゆる現象の根源であると思い込む「マンデラエフェクト」と、世界線に嫌悪感を抱き、日々を怒りと虚無感で埋め尽くしていった。



 見えないに怒りを覚え、自力で元の世界線へ戻れない絶望感に全身がどっぷりと浸かった状態で生きていた。


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