第7話  SNSをもう一度

 駅の待合室で、女はとあるSNSを開いた。特定のワードで検索をかけた。普段ならばしない行為である。女はそういう事に慣れていない。所謂機械オンチである。

 ガラケーを持つのも遅かった。スマホに変えたのはここ一、二年である。


 [マンデラエフェクト]


 恐る恐るSNS内で検索をかけた結果、昨夜遅く列車内や自宅で見た記事や映像、個人のブログ誘導に至るまでがどんどん流れて来た。追加あり、過去の分もある。



 (……嘘……夢じゃなかった……?いや、まだ長い夢の中? )


 女が夢を見る時は、殆どが短く、はっきりと覚えている場合が多かった。夢を見たらしい、という場合は、見ていない方にカウントされていた。


 夢の中では、それぞれが一度きりだが幽体離脱や瞬間移動、UFOらしき物体に吸い込まれて宇宙人は見えなかったが、地上に降ろされた時はパジャマ姿で裸足でアスファルトの上を歩いていた等、リアルであった。が、所詮夢である。短時間で場面転換も早かった。


 (こんなリアルで長い夢は見た事が無い……絶対変だよ絶対おかしい!絶対違う!)


 女はSNSで読んだ情報の数々に疑問を持ちながらも、情報発信者の平静さ、冷静さを不思議に感じた。


 (なんで? どうしてこの人たちは、普通に事象の差異を日常生活で普通に起こった様に発信しているの? 書いてある事は、普通に考えたら……頭がおかしくなったのか、狂ってしまったのか? ってレベルの話だよね? 発信のやり取りしているのも見える。わかる。わかるけど……理解出来ない……でも、でも、職場に昔からあった本の中身が……SNSに書いてある通りの内容に変わっていた!どういう事? 何が起きているの!)


 情報発信者たちは、自身の体験の他に多種多様な情報をしっかりと捉えて、自分なりの見解を示している様に感じられた。しっかり個々の意見や確信を持っている。『世界線』などと夕べ初めて聞いた、見た言葉を使って説明等をしてくれている。『複数』なる『世界線』を越えたという発信者……経験者も現れた。



 (え……『移動』が出来るの? それって、やっぱり私がに来ちゃった、って事だよね? だっておかしいから!家に帰ったのに『帰りたい』って思ったのはおかしいから! 何?私も世界線を越えたの? 移動が出来るのなら、帰れるの? どうやって? この人たちに聞けば帰れる?)


 女は見た目は平静さを保ち、内実は頭も躰もふわふわとしているかの如く不安定な状態であった。


 考え過ぎて列車に乗り遅れてはならない、と思える気持ちの余裕がどこにあったのだろう。不安定ではありながら、どこかが覚めていた。


……冷めていたとは思えない。



 帰宅して、夕食の支度も食すこともそこそこに、女は再びSNSを開いた。


 女はそこで再び衝撃的な内容の文や映像を目にしてしまった。



 心臓が左、左寄り、中央部の世界線が存在する?……胸骨有り、無し、有りの肋骨下部が完全に胸骨に付いていない世界線?……虫垂の位置が左右に分かれる?



 エベレストが高い?低い??


 東京タワーが建設時よりずっと紅白?赤一色……?


 これらを読み、映像を見て、女はとうとう自らがおかしくなったのか、頭の病か、心の病か、専門医の診断を受けるべきか、と……頭の片隅にそんな疑問が湧き起こった。

 

 同時にに詳しく話を伺ってみたいとも思った。



 女はそれまで閉じた世界で生きていられたら本望であり、他人とはあまり関わらない人生を選んで生きて来たのに。


 いきなり知らない扉を無理矢理こじ開けられ、無造作に放り込まれたかの心境であった。



 女は、自覚せずに頭の片隅でいかっていた。

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