第8話 教えられたり拒絶されたり
女は、ただひとつの願いを叶えるべく、SNSの情報発信者たちに疑問を投げかけた……よりは、投げ付けたか、ぶつけた、の方が正しいだろう。
『どうしたら、元の世界線へ戻れますか? どなたか、無事に戻られた方はいますか? 頭がおかしくなりませんか? 病院へ行った方が? 私は◯◯の世界線から来たみたいです!』
彼らは親切に、丁寧に、困惑している女に対して真摯に向き合い、持っている情報や見解を述べた。女に伝えた。教え、アドバイスを与えた。
一体何処からそのような複雑な情報を得たのか……。
得た情報を自分に落とし込み、把握して、他人に噛み砕いて伝え、その上で自らの身に起きた事柄を冷静に対処して、推測する。彼らは皆、頭脳明晰の様だ。
女は短時間に大量の情報が脳内に流れ込んで来た為か、飽和状態になり、全く己とは無関係な彼らの会話を読んでいる内に、全てが自分に向けられているかの錯覚に陥ってしまった。
あちこちのツリーに口を挟み、馴れ馴れしく知らない事を知らない者である彼らに対して無遠慮で不躾な質問をし、意見を伝えた。無我夢中である。五里霧中で疑心暗鬼。カオスであった。
殆どの情報発信者は内心はどうあれ、新参者の女の相手をしてくれた。
が、彼らの一部の中には、当然の如く、女を対象外として、拒否をした。
それくらい、女には常識が欠如していたのである。
拒否をした彼らも、相手をしてくれた彼らも、同じ状況に居た人々だという事に女は全く気が付かずに、思慮が欠けていて状況判断が不可能であった。
彼らは様々な世界線からやって来ているらしい。
人体内図ひとつを取ってみても、胸骨の無い世界線、有る世界線、肋骨が全て胸骨に付いている世界線、肋骨下部は不完全に胸骨に付いている世界線……。
心臓の位置は、完全に左側、やや左寄りが多数。
・元の世界線は現在の世界線と融合的なり吸収なりされたのではないか?帰る場所は無いだろう
・願えば叶う。叶いやすい。ネガティブな感情は下部の世界線へと導かれる。ポジティブ思考になった方がより良い世界線へと移行出来る
・身体は進化し、より丈夫により健康になるべく日々変化を遂げている
・日本国内は元より、世界、いや、地球自体に意思が有るかの様に動き続けている。地図は刻々と姿を変えている
・精神科、心療内科、神経内科の受診は止した方がいい。ひとりではないこと。ありとあらゆる者たちがありとあらゆる世界線から集結している。また、ネットに繋がってはいても、其れ其れ異なった世界線から同一場面……ネットに繋がっている可能性が大である
……この他にも様々な貴重な意見、アドバイスを与えられた女は……。
翌日、自宅の古い百科事典の中身を確認して、打ち砕かれる事になる。
彼らのアドバイスは、一旦宙に浮いた状態になった。
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