第6話 とりあえず職場で確認
翌朝、寝不足を否めない躰をたたき起こした女は、躰の重さを除けばいつもと変わらない朝だと思っていた。
(昨日は悪い夢を見たのかな? こんな事、前にも良くあったし。夢の中で夢を見て、起きてお母さんに『こんな夢を見たよ』って話したら、まだそれも夢の中で、二回目に起きて、お母さんに話し始めたらまたそれも夢で。そこで覚醒して……三度目は疲れちゃって話す気にもならなかった。結局後になって話したけど。アレは辛かったな。)
そんな事を思い出しつつ、クリニックへと出勤した。
午後になり、仕事が一段落した時である。ふと頭の隅に引っかかっていたSNSの文章や映像がフラッシュバックの様に蘇った。
(まさか、ね……夢だよね……あんな字は見たことないし。医療事務の試験だって、胸部はあんな映像とは違ったと思うし。世界地図は……高校卒業してから三十年以上経っているから……自信ないけど。アレはどう見てもおかしいよ。ま、ちょっと確認のため。ちょこっと? 怖いからSNSは見ないでおこう。)
ほんの冗談のつもり。遊び心。そんな感覚で、職場に常備してある、昭和62年から女が使用している文学博士監修の『字典』(昭和61年発行)と、『○波国語辞典』(1980年第3版第2刷発行)と、平成11年以降から使用している『○研 英和独対照 新看護・医学用語辞典増補版』(1999年第31刷発行増補版)を紐解いた。
女は、見なければ良かったと後悔することになる。
(……え……? 何? 何が起きているの!! に、二点しんにょうなんて習わなかったし、知らないし、保険証でも見たことないよ!!この字典は結構見てきた!!こんな字は無かったよ!!嘘でしょう??)
まず、女が見た物は、二点しんにょうが記載された字典であった。
くどい様だが、女はこの字典を確認作業の為に頻繁に使用していた。しかも三十数年間である。
続けて、国語辞典の後ろの方に載っている、本表と言う読み方の手引で、二点しんにょうを見てしまった。
(ちょっと待って待って待って!今までこんな字なんて載って無かったよ!!えっ? まさか、こっちが夢なの? えっ? 今この瞬間が夢なの??)
女は、夢の中で自分が夢を見ている事を自覚し、起床時間を気にして、何とかして自らを覚醒させようと外部からの刺激は不可能だと思い、内部からどうやって自らを起こそうかと考えた事があった。
女は寒気がした。眩暈も感じた。ショックだと自分の頭が叫んでいた。
深いため息をつき、深呼吸を繰り返して、残りの一冊の骨格の図のページを開いた。
……胸骨はあった。が、しかし、図には肋骨下部が全て胸骨に繋がって描かれていた。
(……は? 何? この図、おかしくない? 全部くっ付いて無かった図だったよね? これじゃ昨日見た変な妙な映像とソックリ同じじゃない! いや?確かに下部は離れていたはず!!試験に出たよ!!……多分。)
女は頭が変になったのか、リアルな夢を見ているのか、とても不安になった。
気を取り直して職務に戻れたのは、もしかしたら現実逃避行動であったのかもしれない。
帰宅するまで待ちきれずに、駅の待合室で問題のSNSを開いた女であった。
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