第28話「魔力情報」
「クロム様。お話は伺っております。その方のお名前と年齢、★の数をお教え願えますか?」
ベクトールとの話を終えた後、俺は速攻、受付のマーサのもとに顔を出した。どうやらベクトールが話を通してくれていたらしく、スムーズに事が進む。
「名前は……ブリトニー。年齢は10歳で★★★☆☆」
「かしこまりました。それではこちらで調べますのでしばらくお待ちください」
調べる——? そんなことができるのか?
「調べるって……何を——?」
「あら、伺っておられませんか?」
「————はい」
ベクトールは「助けになってくれる」としか言っていなかったからな。具体的にどのようにして助けになってくれるのかは聞いていない。
「そうですか、なら説明させていただきますね。こちらでは登録された魔力情報をもとに、対象の人物を探し出すことが可能となっております」
「え、それってどうやって——?」
「こちらに登録された
なんだそれ、聞いたことがない話だ。
つまりこういうことだろ? 生き物は皆、微量だろうが魔力を常に放出しているから、それを感知・検索してギルドのデータベース内にある情報と照合、そこからその魔力が誰のもので、どこから放出された魔力なのかを知ることができる——
そして全人類は魔力情報を
て、おい、ってことはどこにいてもギルドからはバレバレってことじゃないか。これじゃプライベートもクソもありゃしない。
「————そんなこと……初めて知りました」
「ええ、これは一般の方にはお話しすることのできない内容となっておりますので……。本来なら、一個人の方のためだけに魔力検索を行うことは現状ありえないのですが、何かしらの緊急事態の際は上の方の許可を得て、このように行使する場合がございます」
そう……だよな、これが一般のサービスとして出回っちまったら、さっきも言った通りプライベートもクソもありゃしない。
——ちょっと待て、これを使えば「マナ」の居場所が一発でわかるじゃないか……。
——いや、今はそれよりもこっちが優先だ。
と、俺が頭の中で追いかけっこをしていた頃合いで、マーサが「あれれ」と口を開いた。その表情はどこか複雑そうで、困惑に満ち溢れている。
「——クロム様、その方のお名前は本当にブリトニー様でお間違いありませんか?」
「……はい、本人がそう名乗ったので」
「『名乗ったこと』以外で、確認は取られましたか?」
とても焦って聞き返してくる。
何かあったのだろうか——
「いや、確認は取ってないです。
「————ッ!」
すると、マーサはさっき以上に驚いて、それ以上に焦り始めた。
口を押え、俯く彼女。少しの沈黙が走り、その空気間に嫌気がさした俺から口を開いた。
「あの……何かまずいことでも——?」
そこでようやくマーサは正気に戻る。
俯いた顔を上げてこちらを向き、
「————大変申し上げにくいのですが……」
彼女が放った言葉は、
「——その方を探すことは不可能です」
………………?
「————」
俺は、ただ沈黙した。
★ ☆
「————え?」
一瞬、何を言われたのかわからなくて固まった。
探すことは不可能——? 「不可能」——?
え、なんで。
「……な、なんでですか——ッ!?」
取り乱して大声を出してしまった。周りの冒険者たちが一斉に俺の方に視線を向けたのがわかった。
しかし、さっきあれだけ「探す方法」を説明されておいて、出来ないってどういうことだよ。
マーサはそんな俺に対して、重い口を開いて説明する。
「……先ほども説明したように……魔力検索と言うものはギルドのデータベースに登録された
「————ッ! ……まさか——」
「……はい、つまり、
「…………はい」
俺は小さく答えた——
異界人。この世界のルールに縛られない存在。つまり、
その事実が現在、足を引っ張る原因となっていた。
迫りくる負の連鎖。
初めは呪文を間違えただけだと思った。しかし、そもそもパーティ申請が行われていなかったため、パーティメンバーではなかったから冒険の書の範囲に選択されることはあり得なかった。
そして、現在は、彼女が異界人のため検索不可能——
この中の一つでも拾えていればあるいは——と思われたが、結局一つでも落とせば躓くようになっている。
まるで誰かが計算して仕組んだかのように、一切隙が無い、容赦のない連鎖。そこにはまったが最後、もう抜け出すことはかなわない。
そう、もとはと言えば俺がしっかりしていれば何とかなった話なのだ。もとはと言えば、な——
——そんなもしもの話を妄想しても、現状が変わることは無いのだ。ただ俺が悪かったという話、それだけだ。
だから、今ここでこうして立ち止まっている時間がもったいない。ここで立ち止まっている暇があるのなら、約束の一時間後に向けて準備をする方がましだ。
「————わかりました。ありがとうございました」
俺は意を決し、その場を後にしようとした。
マーサの表情が、力になれなかったことを悔やんでいるのだろうか、とても悲しそうに見えたのが心に残る。
諦めきった俺の、そんな足取りの最中、ふと、受付の隣に置かれた電照板に目が行った。
「——あ、やったっ! レイニーゲットーッ!」
そこには魔法使いらしき女の子が他の者たちに囲まれて嬉しそうに話している姿があった。おそらくあれはパーティメンバーで、今は魔力更新をして新しいスキルを手に入れたってところだろう。
魔法使いっぽい女の子が手のひらで水を浮かべて嬉しそうだ。
そう言えば、数日前にもここで、ブリトニーの魔法を更新したっけ。あの時も確か、ブリトニーが嬉しそうに火の玉を浮かべていたな。今となっては記憶の一端に過ぎないけど——
「————ッ!」
その時、かつての記憶がふいに頭をよぎった。
『とにかく、その電照板に手をかざしてください』
『ギルド本部の電照板で魔力を調整すれば治るはずじゃが』
『——大丈夫、魔力を整えるだけだから。怖がらなくても平気だよ。……そうだな、魔力を流し込むイメージで——そうそう、鍛冶屋の時みたいに』
『電照板とは、この世界における生物の魔力から個人情報を読み取ったり更新したりできる機械のことである。生物にはそれぞれ魔力が流れており、それを読み取ることで……』
『……魔力検索と言うものはギルドのデータベースに登録された
………
……
…
『————魔力情報————』
………
……
…
「————ッ!」
————おい、ちょっと待て——
「……これってもしかして」
分かるんじゃないのか——?
「——……いかが……いたしましたか?」
俺は振り返り、マーサの顔を凝視していた。
★ ★
数日前、ブリトニーは電照板を用いて新たな魔法を身に着けた。その時、ブリトニーの魔力は電照板によって読み取られ、魔力調整が施された。電照板は、ギルド本部のデータベースとつながる、魔力を読み取る機械——
つまり、ブリトニーの魔力情報は、一度はギルドのデータベースを通過したということだ。
従って、その時の魔力情報をもとにして検索をかければ、彼女を見つけ出すことができるのでは? ——と言う推測が立ったわけだ。
——だが、あくまでこれは推測。理屈上可能ではないだろうかと言う話なだけであって、期待を膨らまして良い代物ではない。しかし、そのワンチャンスに賭けるには丁度いい程度の可能性だ。
「…………ってことで、そこから探し出すことって可能ですか?」
「————ッ!」
マーサは驚いて、呆気にとられたような表情をしていた。
しかし、すぐに我を取り戻し、「そうか、その手があったか」と、かつてブリトニーが電照板を使用した日付——時間帯の履歴を漁り始めた。
生憎なことに、電照板を使用した当時に、マーサが心配してこちらを気にかけていてくれたため、その時の記憶がはっきりとしており、履歴を漁る時間が極端に短縮される結果となった。
そして——
「——……あった——、あったーッ!」
マーサはふいに、大声をあげて喜び始めた。
相変らず周りの冒険者たちは、その声につられてこちらを振り向く。だが、そんなことお構いなしにマーサは目を輝かせながらこちらを凝視していた。
どことなく、その瞳のふちから涙がうっすらと出ているように見え、俺たちのために必死こいて、さらには泣いてくれるまでやってくれたのかと思い、感謝の気持ちだけでは抑えられない衝動にかられた。
ふと、その喜びから我に返ったマーサは、そのデータをもとに照合を始めた。
そして、それは思っていたよりもあっけなくすぐに終わり——
「——よかった、位置情報がわかりましたっ!」
彼女の表情は満面の笑みだった。
魔力情報から位置情報を割り出したマーサは、その情報を俺の冒険の書に転送してくれた。
おかげで霧の森の地図を開くと、そこの中に緑色の●が表示されていた。その●の上には「ブリトニー」と名前が記されており、これがブリトニーの位置を示す情報だということはすぐに分かった。どうやら魔力情報から
マーサは俺に向かって、
「取り敢えず……命があってよかったです」
と口にした。
死亡していたらわかるらしいが、今回は位置情報がはっきりとわかったので、つまり生きているということ。それを踏まえての発言だろう。
こうして俺は、ブリトニーの安否及び位置情報を手に入れた。
さて、残り45分程度……
この時間を使って俺にできる最も有効なことはなんだろう。
装備を強化するにも時間がないし、戦闘慣れするために魔物を狩ろうにも封鎖されて外には出られない——
あ、そうだ——
この際だからちょうどいいや。
マーサも目の前にいることだし——
俺は受付前にいたことを生かし、「冒険の書の扱い方」についてもう一度おさらいすることにした——
※ ※ ※
・基本系
【出でよ】
冒険の書を手元に呼び寄せる基本的な呪文の一つ。
【戻れ】
手元にある冒険の書を指定の場所に転移させる基本的な呪文の一つ。
【常時】
一定の呪文を唱えた後、その呪文の効果を永続的に反映させたいときに唱える呪文。基本的な呪文の一つ。
【解除】
一つ前に唱えた呪文を取り消したいときに唱える呪文。また、『〇〇:常時:解除』と唱えると、『常時』の状態のみが解除される。逆に「〇〇が常時の状態」の場合に『〇〇:解除』と唱えれば、常時の有無に関係なく「〇〇」に付随するすべての呪文効果が解除される。基本的な呪文の一つ。
・グループおよび範囲指定系
【パーティ】
共に戦闘を行う「一般人」を指す言葉。
冒険の書を手に持った状態で『パーティ』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、現在のパーティメンバーを確認することができる。また、『パーティ:登録』と唱え、対象の一般人に自分の冒険の書のページに手を置いてもらえれば、そこで『パーティ契約』が成立し、『パーティメンバー』となる。
『パーティメンバー』の位置取りは、常に地図に表示されている。その際、健康状態だと緑色の●、ダメージを負っていると黄色の●、瀕死状態だと赤色の●、絶命状態だと灰色の●で表示される。
『登録』した『パーティメンバー』を『解除』したい場合は、『パーティ』のページから対象の人物のアイコンに触れ、テキストの「詳細:解除」の内の「解除」の方に触れ、「パーティ契約を破棄しますか?」と言うテキストと「はい:いいえ」の選択ボタンが発生した際に「はい」に触れれば、『パーティ解除』をすることができる。
【同盟】
共に戦闘を行う「冒険者」を指す言葉。
冒険の書を手に持った状態で『同盟』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、現在『同盟』を結んでいる者を確認することができる。また、『同盟:登録』と唱え、対象の冒険者に自分の冒険の書のページに手を置いてもらえれば、そこで『同盟契約』が成立し、『同盟者』となる。また、近くにいる冒険者に『同盟申請』を送ることも可能。その場合、申請を受け取った冒険者がその申請に対して『承認』すれば『同盟契約』が成立する。
近くに『同盟者』が居れば、地図に表示させることができる。その際、健康状態だと緑色の●、ダメージを負っていると黄色の●、瀕死状態だと赤色の●、絶命状態だと灰色の●で表示される。
『登録』した『同盟』を『解除』したい場合は、『同盟』のページから対象の人物のアイコンに触れ、テキストの「詳細:解除」の内の「解除」の方に触れ、「同盟契約を破棄しますか?」と言うテキストと「はい:いいえ」の選択ボタンが発生した際に「はい」に触れれば、『同盟解除』をすることができる。
【
友好関係にある「冒険者」を指す言葉。
冒険の書を手に持った状態で『
近くに『
『登録』した『
・便利系
【通話】
冒険の書を手に持った状態で『通話:〇〇』と唱えることで発動する。「〇〇」が『
【チャット】
冒険の書を手に持った状態で『チャット:〇〇』と唱えることで発動する。「〇〇」が『
【検索】
冒険の書を手に持った状態で『検索:〇〇』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、「〇〇」の部分に関する情報が、魔力ネットワークを通じて記載される。
【保存】
『検索』した状態のページに載った画像や映像などを保存する機能。画像や映像に触れることで『保存しますか?』と言うテキストが出現し、それに触れることで保存ができる。保存したそれらは、『保存資料』から確認ができる。
【映写】
冒険の書を手に持った状態で『映写』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、ページ越しの景色を映し出すことができる。それらはページ内に存在するボタンによって画像や映像として『保存』することが可能。『保存』したそれらは、『保存資料』から確認ができる。
【保存資料】
冒険の書を持った状態で『保存資料』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、これまで『保存』してきた画像や映像、メモなどを閲覧することができる。
【地図】
冒険の書を持った状態で『地図』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、現在地に適した『地図』が表示される。しかし、初期状態だと『地図』のデータはゼロになっているため、『保存資料』から『地図』のデータだけを抜粋し、各エリアごとにリスト化する必要がある。
【時計】
冒険の書を手に持った状態で『時計』と唱えることで発動する。その時開いていたページの端(見開き左ページなら左上、見開き右ページなら右上)に時刻表示が現れる。また、『時計:常時』と唱えることで、全てのページの端に時刻表示が現れる。
【収納】
冒険の書を手に持ち、それとは逆の手で何かに触れた状態で『収納』と唱えることで発動する。触れているものを冒険の書内部に収納することができる。ただし、収納できないもの(生きている生物など)も存在する。また、一度収納したことのあるアイテムで、かつ一定の範囲内にそれが存在する場合、直接触れていなくてもそれを収納することができる。収納したアイテムは、『インベントリ』から確認、取り出すことができる。
【インベントリ】
冒険の書を手に持った状態で『インベントリ』と唱えることで発動する。冒険の書のページが切り替わり、これまで『収納』してきたアイテムを確認、取り出すことができる。
・転移系
…冒険の書に蓄積された魔力を多く消費するため、連続使用や併用などは不可。
【転移】
冒険の書を手に持った状態で『転移:〇〇』と唱えることで発動する。「〇〇」の部分が転移門の存在する場所の場合、呪文を唱えた者はそこへワープする。「〇〇」の部分が『
また、『転移』の前に範囲指定の単語を付ければ(例えば『パーティ:転移:〇〇』など)範囲指定に則った全員が、指定の場所へワープする。
【召喚】
冒険の書を手に持った状態で『召喚:〇〇』と唱えることで発動する。「〇〇」の部分がパーティメンバーの名前の場合、その者を、呪文を唱えた者のところへ強制的にワープさせる。
【ゲート:開放】
冒険の書を手に持った状態で『ゲート:開放』と唱えることで発動する。呪文を唱えた者の冒険の書を軸に、転移門が生成される。『ゲート』が『開放』されている間は、『
また、一定時間が過ぎるとその『ゲート』は自動的に『解除』される。
【ゲート:設置】
冒険の書を手に持った状態で『ゲート:設置』と唱えることで発動する。指定した場所を軸に、転移門が生成される。『ゲート』が『設置』されている間は、『
また、一定時間が過ぎるとその『ゲート』は自動的に『解除』される。
※ ※ ※
【現在】
所持金:約3000G
達成ポイント:300pt
【所持品】
・冒険の書(赤)
・魔晶石(白)×3
・薬草×5
・回復薬×5
・魔力の実×5
・魔力薬×6
・加速薬×1
——「ログインボーナス」により、表記されていない間に獲得したアイテムが加算されています。
……
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