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 警備部室の一角にある休憩所で、私は腰を据えて小さなテレビ画面を見ていた。荒士が淹れてくれたアールグレイをすすりながら、Tシャツやタンクトップの覆面生徒の挙動を見つめる。

 逃げ足に迷いがない。それどころか、余裕気に笑っている。これは、訓練でもしたのだろうか。だとしたら、はっきりと言える。彼らを指揮している生徒がいて、それは鈴木 良平ではない。アイツができるのはせいぜい、先日のように啖呵を切るくらいだろう。

 おおよそ20人。

 一糸乱れず、彼らをまとめ上げることができる生徒、か。逃げる彼らは実に伸び伸びしている。弱味を握られている感じはないし、恨み節で纏まっている感じでもない。ならば、彼らの気持ちを一つにしているのはなんだと言うのだろうか。目標、目的、使命感? どれもピンと来ない。

 画面が切りかわる。派手なTシャツに、呆れてしまう。どいつもこいつも、自己主張が激しい。これで逃げ仰せるんだから、余程下積みしたらしい。

 覆面に派手なTシャツに。目撃情報を募れば、1人くらいは捕まえられそうなものだけど。そうすれば芋づる式に全員見つけられて、処罰できそうなものだけど。

 さすがに覆面下の顔は想像するには難しく、リストの顔と照らし合わせることは叶わなかった。


「盗聴器、持ち主の特定なんてしてないわよね」

「してないはずだよ。というか、できなかったはずだよ」


 一人言に返ってきた言葉に、荒士もまた新たな情報源であることを改めて認識した。

 持ち主を特定してくれていれば、それこそ芋づる式に取っ捕まえることができるのに。

 念のためにと用意していた紙の束を、パラパラとめくる。赤丸がついた紙と、そうじゃないものを分ける。おおよそ20の名前の多くは、二科だった。とはいっても、半数にも満たない。それがまた、予想外だった。まあ、だから統率をとるのも少しは楽だったのかもしれないけど。

 おおよそ20。リストの、半数にも満たない。彼らはどこに消えたのか。

 彼らを吊るために必要なもの。弱味でも、目標でもないもの。

 ーー物か、金か。

 盗聴器で小遣い稼ぎをしていたヤツらに、闇市の売り上げが落ちた事実に。

 狭い世界だ。

 誰かと誰かが、食いあっていても可笑しくはない。

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