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「突然現れたんだよ」


 少しの沈黙をへて出てきた言葉に、嘆息は続いた。

 どうやら彼らは、何通りかのルートを確保しているらしい。


「監視カメラに穴があったのね」

「防犯カメラだよ。まあ、全くないって訳じゃないけど」


 項垂れる委員長はほとほと疲れ果てていて、学業との両立の難しさを体現しているようだった。


「これは想定外だって言いたいの?」

「想定外って言うか」


 すらっと出てきそうだったグチが途切れる。戻ってきた余裕気な笑顔に、ため息をつきそうになった。

 我に返るのが早すぎるのよ。


「【幹部】に言うようなことじゃないな」


 ほんと、気づかなくてよかったのに。

 仕方ないとため息ひとつで割りきって、腰に手を添える。


「点検は月1?」

「それも、【幹部】に言うようなことじゃないな」


 開き直って聞き込めば、さっきと同じ言葉が返ってきた。


「普通は知らされるものでしょ?」

「こういうことにならないならな」


 点検の後を狙って細工されて、それを抜き打ちで取り締まって、なんて鼬ごっこはする気がないってことね。まあ、普通の生徒なら点検の日取りなんて張り出されても気にしないだろうから、知らせても知らせなくても一緒よね。イチャモンつけてくる輩がいない限りは。それも点検する側に不備がなければ良いだけの話だし。


「調査するの?」

「それは、そうだな。それが何かの足掛かりになるなら」


 さっきまでの疲れはどこへやら。


「【幹部】もそうなんだろ?」


 不適な笑みで、委員長は言い放つ。

 腹立たしいこと、この上ない。


「一矢報いたいんでしょ」

「覚えててくれて嬉しいよ」


 委員長の笑顔に、考えもなしに苛立ちをぶつけることも不服なので、背を向けた。


「【幹部】、この件に情報屋は絡んでると考えてる?」

「さあ? どうでしょうね」


 本当は、絡んでるなんて思ってないけど。

 チャイムが鳴った。おかげで、まだテスト時間だったことを思い出した。

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