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 体育館の2階に身を潜め、双眼鏡を使って外を眺める。膝の上にはあの紙の束を乗せて、誰かの顔が見える度に同じ顔を探した。

 今のところ、合致したのは2人。クラスメイトだったから、探すのに苦労はしなかった。


 テスト期間中、開かれているはずのない体育館は、より一層の静けさに包まれていた。さっきから紙をめくる度に広がる些細な音が、いやに耳について仕方ない。


 どうやらプレハブ部室の一室が、【吸血族】と名乗った彼らのアジトのようだった。鈴木良成の姿を見かけたから、間違いないだろう。それにしても、ライダース来ている人数の少なさよ。

 発注書には20近くの数が書かれていたのに対し、見かけたのは鈴木良成ほか2名だけだ。みんながみんな、テストをサボるわけではないということか。それとも、20着から3着に減ったのか。それとも、絶対的なものではないだけか。それにしても、ほかの人たちは一様にジャージ姿を守っているように見えるけど。


「ん?」


 思わずこぼれた声に、咳払いをしてごまかした。誰もいやしないのに。なんて嘲笑っていたら、携帯が鳴って驚く。

 画面を見やれば、荒士からメールが届いていた。

 どうやら、彼らは今日も活発に活動に及んでいるらしい。

 私は今一度、彼らのアジトを確認して、体育館をあとにした。早歩きで校舎を横断して、現場へ急ぐ。

 彼らを捕まえるつもりはない。私の役目じゃないし、彼らが躍起になって追いかけているのは、コチラにとっても好都合だ。テスト中に騒がれるのは、まあ、普通の生徒にとっちゃ迷惑きわまりないだろうけど。

 どうやら彼らは、場所も時間も選ばないらしいから。

 目的地付近にきて、その騒ぎの大きさに首を傾げる。

 文Ⅰ科校舎、一階の端。だと、聞いたのに。

 荒士に教えてもらった場所に、彼らの姿はない。

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