56

 パラパラとめくってみる。どうみても、ライダースの注文書じゃないものも混じってるけど。


「それにしても、今思い出しても腹が立つわ! 自分勝手にも程があると思わない!?」


 どうやら、青いファイルが【にオカ】の余計な記憶を呼び覚ましたらしい。


「良かったじゃない。そのおかげで新歓の目玉が決まったんでしょ?」

「それでも、感情は釣り合わないのよ!」


 ライダースの注文書を見つけると、私は携帯を取りだし、メモ帳に入力しておいたリストの名前の一覧を開く。


「座って」

「ありがとう」


 青い丸椅子を勧められて、腰を下ろす。【にオカ】は私の向かいにわざわざ移動して、座った。

 リストの中に、同じ名前がないか確認していく。


「何? 個人的なものなの?」

「委員会活動ね」

「校紀委員会ってほんと、なにやってるか分からない委員会よね」

「それを売りにしてるからね」

「もう。説明がややこしいだけでしょ?」

「そうね」


 面倒臭いだけとも言うけどね。


「それで? これは何かのヒントになりそうかしら?」

「さあ? まだ分からないけど」


 リストを下へ進めながら、五十音順に入力すれば良かったと後悔した。記憶に間違いがないか時おり注文書を確認しながら、数分。同じ名前を見つけてほくそ笑んだ。


「ねぇ、どんなやつだった?」

「別にパッとしないヤツよ! 他の人と同じような茶色の髪に、平均よりちょっと低い身長に、肉つきも普通で、しょうゆともソースとも言えない顔つきの子よ!」


 詳細ではないにしても、全体を見渡していたことは分かった。


「全く同じ形にしてくれって口酸っぱく言われたのよ! 一緒に勲章みたいなものも何個か作れるか? とか色々言ってきたくせに、ドタキャンよ! 最悪! もう本当に信じられない!」


 どうやら顔を思い出して、怒りが再熱したらしい。さっきの怒りも収まってなかったんだろうけど。痰を切ったように捲し立てる【にオカ】をよそに、私は発注書を写メに納めた。


「それからライダースの発注はないのよね?」


 【にオカ】が息をついたその瞬間を逃さず、質問を挟む。


「ないわよ! 1つもね!」


 さっきまでの勢いをそのままに、答えは返ってきた。

 1年間。鈴木 良成とは同じクラスだったけど、ライダースって見たことないのよね。まあ、たまたまかもしれないけど。上着はそうそう取り換えるものでもないだろう。オシャレして出掛けるところもないから、勝負時にとっておく必要もないだろう。いや、今がそのとき? だとすれば、アイツは入学前から狙ってたのか? ありえない。

 ならば、どうやって手に入れたのか。

 この学校での他の入手方法といえば、親からの仕送りくらいだ。寮母さんのチェックは入るが、ライダースが没収されることはないだろう。その他部活動と提携している業者は、それも教師が受取・検品しているし。あとは、調達屋か。情報屋以外にも、取引しているヤツがいるのか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る