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青山の肩に手を乗せたまま、身体を引く。手に力を込めすぎて、うまくいかなかった。が、青山は不機嫌な顔で振り向き、その目で私を捉えた。そのうしろで、数名の生徒が階段の下へ向かおうとしているのを見つける。
「動くな! 巻き込まれるわよ!」
それらを声でいなして、降りかかる拳をかわす。2・3発かわしたあと、さらに振り下ろされる拳を両腕で受け止め、威力を下方へいなす。そのまま腕を大きく回し、青山の脇下で身体を反転させた。そして、青山の腕を捻る。大きな身体が容易く宙を舞い、豪快な音を立てて床に衝突した。青山の呻き声が、どよめきにかき消される。
観衆の足を止めたことに理由はある。だけど、心配で胸が張り裂けそうだ。こんな思い、もう2度と御免だと思っていたのに。
美樹が駆け寄ってこようとした。それを手で制す。青山が渋い顔で私を睨んで、起き上がろうとしている。何度投げ飛ばせば良いか分からない。意表は突けても、力のない女子では1発KOは難しい。
視線を巡らせる。保健委員会が、階段の下に叫びかけている。その足が、2人に向かおうとしている。早くしなければ。
青山のそば、放り出された警棒を、青山が掴もうとしている。
私は、彼より警棒を掴んだ。その腕を、振り切る。警棒は、青山の顎に命中した。響いた鈍い音は、みなの足を止めた。
地に沈む青山に、静まり返る一同。
私は精一杯、低音を意識した。
「風紀、ここから先はあなたたちの仕事でしょ」
生徒の渦に飲み込まれていた風紀委員数名が、名指しされて肩を弾ませる。視線でお互いを確認しながら、恐る恐る私の横を通りすぎていった。私は平静を装い、階下へと向かう。
その途中、美樹が心配して、駆けよって来てくれた。
笑顔で安心させて、捕まれた手を離してもらう。
「大丈夫?」
「問題ないわ。悪いけど、救急車呼んでもらえる?」
「分かったわ」
美樹はすぐに携帯を取りだしてくれた。階下では白樺 ゆず季が呻き、起きあがろうとしていた。急いで駆けつけ、寄り添う。大丈夫か確認すると、少し身体が痛いだけで問題はないとはっきりと答えてくれた。胸を撫で下ろし、唸る柳を見やる。うっすらと目が開いた。血が見えないことだけが救いだ。いや、内出血の恐れもあるのか。
「悪いんだけどそのまま寝てて貰える?」
囁くと、彼女は小さく頷いてくれた。起きあがる柳に、ムリをするなと言えないことが悔やまれる。
「平気?」
「ああ」
「どこまで動ける?」
「問題ない」
「痛みは?」
「平気だ。なにか策があるんだろ?」
倒れたままの彼女を挟んで、確認しあう。きっと彼女より、柳の方が負傷しているはずなのに。
「稔流!」
声に見上げると、美樹が電話を終えて階段を下りてきていた。
「柳、悪いんだけど彼女を保健室に運んでくれる?」
「わかった」
柳は彼女を抱え、しっかりとした足取りで階段を下りていく。こちらに辿り着いた美樹と一緒に階段を上る。手に持ったままの警棒に気づいて、スカートの隙間に隠した。その横を、保健委員が恐る恐る横切り、柳の後ろについていった。
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