005 二日目 朝 購入

「布団を、購入してきました。」


そう喋った物体は布団に埋もれていて見えない。

多分昨日の猫だろう。

両手いっぱいに布団を抱えたそれは、ここまで布団を素手で持ってきたせいだろう。

もう限界なのだ、布団の重みに耐えかねて小さく小刻みに震えている。

その姿を眺めながら少女は手伝うでも心配するでも安堵でもなく、


『そう…。』


とだけ答えた。


「昨日は布団を頂いてしまったので。」


猫はそう言うとつかつかと部屋の奥へと入っていった。

部屋の奥と言っても1DKの小さな部屋なので、

見なくてもどこにいるか一瞬でわかる程だ。

そこでようやく少女の思考が始まった。


(あれ…。)


部屋には洗い物の水の音が響く。


(住む気だ。)


水音が段々と大きくなっていくように聞こえる。


「ここに入れておきますね。」


猫が、昨日少女が布団を出した押し入れを開け、

そこに購入してきた布団を押し込む。


「これで二人とも布団で寝れますね。」


(住む気満々だ。)


猫が満足気に言う。

少女は先ほどからずっと流れっぱなしだった蛇口を閉めた。

ふきんで手を拭きながら言い放った。


『朝ご飯、もうないわよ。』

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