002 一日目 夜 夕食

家に帰ってきた少女と猫は食卓を前にしていた。

少女は口を開かずに箸を右手に持ったまま猫をぼんやりと観察している。

すると、行儀良く食卓の前に正座をして待っている猫が口を開いた。


「やはり鍋は最高です。」


少女はそれを聞くと箸で鍋の様子を確認した。

鍋はぐつぐつと音を立ててもうすぐだと言わんばかりに煮えている。

それを見て猫はなんだか嬉しそうに顔が綻んだ。


そこで少女が気が付いた。


(なんかこいつ毛生えたな…)


先ほど猫を拾った時にはなかったはずの毛が、頭部に生えている。

自分と同じ、黒々とした毛だ。


そんな事を考えていると、猫がそーっと箸を右手で持ち、鍋に手を伸ばそうとした。

少女は猫の手を軽く叩く。


「あっ!?」


叩かれた瞬間に上がった声。

猫の手から落ちる箸。

何故…?という雰囲気で猫が少女を見ると、

少女は姿勢よく正座したまま言い放った。


『まだ煮えてないわ。』


静かな部屋に、鍋のぐつぐつとした音だけが残った。

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