鍋にしましょう
おさかな
001 一日目 夕方 出会い
夕暮れ、まだ半袖には少し肌寒い早い季節。
半袖のセーラー服を纏い、腰上までの髪をなびかせた少女が家路につく。
いつもの事、いつもの時間、いつも同じ路。
だがその日は奇妙な声が聞こえたのだ。
「ひろって、くださいますか?」
声のする方へと振り向いてみると、
とても大きなベージュ色猫が段ボールに入ってこちらを眺めていた。
そしてその大きな猫はもう一度呟いた。
「ひろって、くださいますか?」
少女は一瞬固まった。
大きさとか、猫が喋ったとか、そういう事ではない。
他者とのコミュニケーションに戸惑った。
ずっと独りで生きてきたのだ。
もう随分と学校の最低限のコミュニケーションしかしてこなかった彼女にとって、
幼少期以来の、他者とのコミュニケーションであった。
少女は段ボールに近づき、その猫と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
『…いいわよ。』
「まことにありがたい。」
その大きな猫の手を握り、途中であった家路につく。
二本足で立った猫は少女と同じくらいの背丈であった。
いつの日かを思い出した。
昔誰かとこうやって手を繋いだ事がある事。
久々に誰かに触れた事。
歩き出して少し経ったくらいだろうか、猫が口を開いた。
「夕飯は鍋がいいです。」
少女はそれに返した。
『…いいわよ。』
夕暮れの中、仲良く手を繋いだ二人が小さく消えていった。
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