西のほうから -8




次の日。

『ヒヅメ』は穴の中でうんちを見つけました。

ここは『うんちの穴』ではありません。

うんちはずっと続いています。

『ヒヅメ』はうんちのあとについて行きました。


そこにはあの、ぼうしをかぶった人がいました。

名前はたしか、『赤い水草』です。

『赤い水草』は、『ウシどろぼう』の服とクモをぬすんだ人です。

そして昨日『ヒヅメ』が、決まりごとを教えてあげた人です。


『ヒヅメ』はものすごい勢いで走ると、『赤い水草』の首根っこをつかんで、引きずりたおしました。

そうしてまた『赤い水草』のおなかの上に座りました。


「ぐえぇっ。ちょっと! 何をするんだ!」

「昨日(わたしがあなたに)言ったことをおぼえているか?」

「え?」

「うんちはどこでするんだ?」

「うんちの穴……」

「そうだな。(あなたは)うんちを『うんちの穴』に捨てたか?」

「す、捨てたよ! 捨てたったら!」

「じゃあ(わたしの)手をにぎってくれ」

「え?」

「(あなたと)手をつなげば(あなたが)本当のことを言っているかどうか、わかる」


『ヒヅメ』は『赤い水草』に手を差し出しました。

『赤い水草』はその手を見ましたが、手をつなごうとはしませんでした。


「どうした?」

「うぅ……、し、したよ! うんちを! 道の真ん中で! でもそれを『うんちの穴』には捨てなかった!」

「わかった。ここでの決まりごとを守れないなら、むらから出て行ってくれ」

「イヤだよ!」

「どうして?」

「お金が必要なんだ!」

「何を買うんだ?」

「わたしの家族だよ! 『ナマズとくらす人たち』から、わたしの家族を取り返すためにはお金が必要なんだ!」

「だから人の服やクモをぬすんで売っているのか? 『赤い水草』」

「え? な、なんのこと? え、なんでわたしの名前を知ってるの?」

「服とクモを売っていた人が教えてくれた」

「あ、え、え~と……」

「人のものをぬすむこと。うんちを道にすること。決まりごとをやぶったのに、ウソをつくこと。決まりごとを守れない人は、むらから出て行ってくれ」

「ここから出て行ったらお金を集める場所がないよ!」

「人のものをぬすまないと、お金は集められない?」

「そ、そんなことはないけど……」

「じゃあ人のものをぬすまないでお金を集めれば良い。うんちも、うんちの穴ですれば良い」

「でもそれじゃあお金がなかなか集まらないんだよ! 家族を取り戻すには、お金がたくさん必要なんだ!」

「わかった。じゃあ話を聞こう」


『ヒヅメ』は『赤い水草』のおなかの上からどきました。

『赤い水草』は、おなかをなでました。

そして、話をはじめました。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る