西のほうから -7


「うぇっくしょい!」


『ウシどろぼう』は、クシャミをしました。

『ヒヅメ』は『ウシどろぼう』と手をつなぎます。


「服がなくても心配するな。みんなでくっついて寝れば、あたたかい」

「ありがとう。あなたたちの毛は、長くてあたたかそうだ」

「(わたしと)くっつくか?」

「うん、少しわたしに、くっついてくれる?」


2人はくっついて座りました。

手もつないでいます。


『ウシどろぼう』が言いました。


「あの人たち」

「うん?」

「あの人たち、『ナマズとくらす人たちの国』から逃げてきたって、言っていた。『国』、って」

「そうだ」

「『ナマズとくらす人たち』は、わたしたちが捨てた『お金』と『国』を、また作り直したんだね」

「ああ。そうらしい。西には『かえるところがいらない人たち』がいる。『かえるところがいらない人たち』は、『ナマズとくらす人たち』に 「『かえるところ』の暮らし方はまちがっている」 って教えているらしい」

「自分たちの信じたいことのために、誰かのことをまちがっている、って言っているんだね」

「ああ。『かえるところがいらない人たち』は、『かえるところ』が嫌いだ。西に行った『お渡しさん』は、誰も帰ってこない」

「どうして帰ってこないの?」

「殺されたのかもしれない」

「そうか」

「おい」

「ああ、わかる?」

「ああ、わかる。(あなたは)『ナマズとくらす人たちの国』に行きたいんだろう?」

「うん」

「でも『お渡しさん』が西に行ったら、殺されてしまうかもしれない。(あなたは)それでも行きたいのか?」

「かもしれないって、イヤな言葉なんだよ、わたしには。本当かどうか知りたくなっちゃう」

「そうか」

「わたしもわかるよ。あなたがわたしを西に行かせたくない、って思っているのが」

「ああ。嫌いだからとか、まちがっていると思うからって理由で、殺したり殺されたりするのはかなしい。人に、西も東もないのに、そういうふうにわけて言わないとならないことも、かなしい」

「うん。だから、行かないよ。今はね。西へは『つっつき棒』が見つかってから行くよ」

「見つかると良いな」

「そうだね。ところで」

「なんだ?」

「あなたたちは、『ナマズとくらす人たち』と話したことはある?」

「ない。(わたしたちが)話したことがあるのは『西からにげてきた人たち』 だけだ」

「『かえるところがいらない人たち』とは?」

「話したことはない」

「『西からにげてきた人たち』 は、西から追ってくる人たちに見つからないように、穴の中で暮らしているんだよね?」

「ああ」

「西から追ってくる人たちが、ここに来たことはないの?」

「たまに近くまで来ることはある」

「そのときはどうしてるの?」

「見張りが 「西から人が来たぞ」 ってみんなに教える。そうしたらみんな、穴の中に隠れるんだ。西から追ってくる人たちは、穴の中までは入ってこない」

「でももしそれが、西から追ってくる人たちじゃなくて、『西からにげてきた人たち』だったら?」

「話を聞く」

「あなたたちはどうやって『西からにげてきた人たち』 と、西から追ってくる人たちを、見分けているの?」

「西から追ってくる人たちは『ナマズとくらす人たちの国』の兵士だ。兵士たちは『走るワニ』に乗っている」

「『走るワニ』!」

「(あなたは)『走るワニ』に乗りたいんだな?」

「乗りたい! 『ヒヅメ』はそれを見たことある?」

「ああ」


『ヒヅメ』は『ウシどろぼう』に、『走るワニ』の姿を見せてあげました。


『走るワニ』は長い後ろ足で立って、地面をはやく走ることが出来るワニです。

『走るワニ』に乗った兵士は、大きくてこわい感じがします。

『走るワニ』にかまれたら、きっとケガをしてしまうなと、『ウシどろぼう』は思いました。


『ウシどろぼう』は話を続けます。


「もし『西からにげてきた人たち』 が、あなたたち『みずうみを守る人たち』に 「兵士たちをやっつけて」 ってお願いしてきたら、あなたたちはどうするの?」

「(わたしたちは)戦わない」

「そうか。そうだよね。じゃあ『ナマズとくらす人たち』があなたたちに 「助けて」 って言ってきたら?」

「話を聞く」

「そうか」

「ああ。今日はもう、穴の中に戻って寝よう」

「そうだね。仕事のあと、寝転ばなかったから、つかれたね」


『ヒヅメ』はその日、『ウシどろぼう』にくっついて眠りました。




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