西のほうから -6
『西からにげてきた人たちのむら』の中には、市場があります。
そこでは、畑で作ったり、何かを殺したりした食べものや、湖からくんできた水が売られています。
市場は、西から逃げてきた多くの人たちで、ごった返しています。
市場では、お金で食べものや飲みものを買います。
『ヒヅメ』の目を借りてそれを見た『ウシどろぼう』は、うれしそうです。
『ウシどろぼう』は、お金が使われているのを見たことがありません。
どうしてかって、それは、東の人たちはお金を使わないからです。
ずっと昔に 「もうお金を使うのはやめよう」 って、話して決めたからです。
あなたたちの時代には、お金がありますか?
それはどんなお金ですか?
知りたがりの『ウシどろぼう』は、それも知りたがるかもしれません。
「これがお金かぁ」
「ああ。(わたしたちは)出来れば『西からにげてきた人たち』 にもお金を持ったり、食べものをたくさん集めたりはしてほしくない。でも仕方がない。この人たちは西から来たばかりで、お金を使わないと食べものを手に入れられないと思っている。(あなたの)服とクモは、ここで売られたんだ」
「そうか。ぼうしをかぶった人は、わたしの服とクモを売ったお金で食べものを買うんだね」
「ああ。じゃあ、クモが売られている店に行こう」
「その前に少し、市場を見て回っても良いかい?」
「そうか。ああ、わかった」
「ありがとう」
市場には食べるものや飲むものの他にも、色々なものが売られていました。
お店には看板があって 「食べものはこちら」 とか 「布はこちら」 とか書いてあります。
でも東の人は、字を使いません。
だから看板の字を読まないで、ひとつひとつのお店を見て回ります。
そのたびに『ウシどろぼう』が 「あれはなんだろう」「これはなんだろう」 と足を止めるので、『ヒヅメ』もそのたびに足を止めました。
たくさん歩いて、2人はようやく『ハタオリグモ』を売っているお店に着きました。
『ウシどろぼう』は、お店の人に声をかけました。
「やぁ」
「やぁこんにちは。何か買って行くかい?」
「良いクモがいるね」
「良いクモだろう? 手に入れたばかりの『服を作ってくれるクモ』さ。服を着ていないあなたにはちょうど良い」
「そうだね―――ところで、このクモはこの辺りにはいないクモなんだ。このクモをどこで手に入れたの?」
「ああ、買ったのさ。『赤い水草』って名前の人からね」
「赤いって、あなたたちが見ている、色の話?」
「ああそうだよ。血は赤いだろ? あの赤だよ」
「そうなんだね。ところでその『赤い水草』は、ぼうしをかぶっている?」
「ああ。『ナマズとくらす人たち』の兵士のぼうしさ、アレは」
「『ナマズとくらす人たち』?」
「なんだ知らないのかい? ここの人たちはだいたい『ナマズとくらす人たちの国』から、逃げてきたんだよ」
「そうか。教えてくれてありがとう。ところでそのクモは、いくらで買えるんだい? ええと、ほしいものを買うときは 「値段はいくら?」 って聞くんだよね、たしか」
「あなたは東の人か? 東でも西でもどっちでも良いけど、お金はちゃんと持っているかい?」
「持っていないよ」
「じゃあダメだ。これはとってもたくさんのお金がないと買えないよ。だって服を作ってくれる、とても便利なクモなんだからね」
「そのクモがわたしの友達だとしても?」
「このクモがあなたの友達だってダメだよ。このクモは、わたしが買った、わたしのものだ」
「あなたのもの、って?」
「わたしが売ったり捨てたり、好きにして良いもののことだよ」
「どうして?」
「どうしてって……だってわたしが買ったんだぞ?」
「じゃあもし、わたしがあなたを買ったら、あなたを売ったり捨てたり、好きにして良いの?」
「そんなのダメだ」
「どうして?」
「わたしは人だぞ? 人を売ったり捨てたりしちゃ、ダメだ」
「そのクモは私の友達で、人なんだ」
「人なもんか。これはクモだ」
「う~ん、そうか」
「そうさ。変な人だな、あなたは」
「ところで、この辺で『つっつき棒』って名前の人を、見たり聞いたりしなかった? 私はその人を探しているんだ」
「知らないね」
「そうか。でもその人は人だから、ここで売られたり捨てられたり、していないよね?」
「ああ。ここにいれば大丈夫だ。でも、その人が西にいたらわからない」
「どうして?」
「西のほうじゃ、人も売ったり買ったりされるんだ」
「そうか。わかったよ。ありがとう」
2人は市場を出て、穴の外に出ました。
『ウシどろぼう』は服もクモも、取り返すことが出来ず、すっぽんぽんのままです。
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