西のほうから -4
次の日。
『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』は今日も、話を聞く係の仕事をします。
『ウシどろぼう』のところに、ぼうしをかぶった、『毛のある人』がやってきました。
「やぁ。どうも係さん」
「こんにちは」
「なぁなぁ係さん係さん。みんながいるところだと、はずかしくて出来ない話があるんだ」
「へぇ。それをわたしが聞いても良いの?」
「良いよ良いよ。聞いてほしい。でもここじゃはずかしいから、あっちの、人がいないほうに来てくれない?」
「わかった。でもわたしは目が見えないから、連れていってくれない?」
「え? あなたは目が見えないの?」
「見えないというか、小さなものしか見えないんだ。人とか動物とか、そういう大きさのものは、よく見えない」
「そうなの?」
「うん」
「じゃあわたしが今かぶっているぼうしも、見えないの?」
「あなたはぼうしをかぶっているんだね?」
「そうさ。わたしはぼうしを、かぶっている」
「あなたの名前は? わたしは『ウシどろぼう』っていう名前なんだ」
「わたしの名前かい? それはあっちの、人がいないほうで話そうか」
「わかった。そっちまで連れていってくれる?」
「もちろんさ」
ぼうしをかぶった人は、『ウシどろぼう』の手をにぎりました。
そして2人は、人がいないほうへ行きました。
『ウシどろぼう』は、ぼうしをかぶった人に聞きました。
「もう良いかい?」
「ああ、そうだね。もう良いよ」
「そうか。じゃあまず、あなたの名前を聞かせてもらっても良い?」
「ざんねんだけど、そいつはムリだね」
「みんながいるところだと、はずかしくて出来ない話がある」なんて大ウソです。
その人は、誰も見ていないところに『ウシどろぼう』を連れていきました。
そして『ウシどろぼう』が着ていた服をみんな脱がせてしまいました。
ぼうしをかぶった人は、服どろぼうでした。
ぼうしをかぶった人は、服を作ってくれる『ハタオリグモ』も持っていってしまいました。
新しい服も作れない『ウシどろぼう』は、すっぽんぽんです。
服をぬすまれてしまった『ウシどろぼう』は仕方なく、すっぽんぽんで係の仕事を続けました。
『ヒヅメ』がそれを見て言います。
「服はどうした?」
「ぬすまれてしまったよ」
「そうか」
『ヒヅメ』は『ウシどろぼう』と手をつなぎました。
「仕事が終わったら、服を探しに行こう」
「わかった。でも新しい『ハタオリグモ』さえいれば、ぬすまれた服はもういらないよ」
「このむらに『ハタオリグモ』はいない」
「じゃあクモは返してもらわないとね」
「ああ。それに、人をだまして、ものをぬすむことは、ここでは『悪いこと』だ」
「逃げてきたばかりで、その決まりごとを知らなかったのかも?」
「だったら教えに行かないと。ここでの決まりごとを守らないと、ここにはいられない」
「わかったよ」
その日、仕事が終わった『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』は寝転びませんでした。
本当は寝転びたいんですが、がんばって服をぬすんだ人を探します。
「(あなたが)服をぬすまれたのはこの辺り?」
「そうだと思う。ちょっと待って。壁に聞いてみる」
「『お渡しさん』は便利だな」
『お訳しさん』と『お渡しさん』は土や水、木や空気とも手をつなぐことが出来ます。
『お訳しさん』と『お渡しさん』は、色んなものとおしゃべりが出来ます。
『ウシどろぼう』は壁を触りました。
そのあと、床を触りました。
「こっちだね。ぼうしをかぶった人はこっちのほうに歩いて行ったみたいだ」
「よし、行こう」
『ウシどろぼう』はそのまま、手で床を触りながら歩きます。
『ヒヅメ』がそのあとをついて行きます。
しばらく進むと、道にうんちが落ちていました。
『ウシどろぼう』は、そのうんちを触りました。
「これは、ぼうしをかぶった人のうんちだ」
「うんちは『うんちの穴』に捨てるのが、ここでの決まりごとだ」
「それも教えに行かないとね」
「ああ、行こう。うんちはこっちに続いてる」
ひとつ、またひとつ。
『ヒヅメ』は、うんちを見つけて拾いながら進みます。
途中、それを『うんちの穴』に捨てながら。
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