西のほうから -2


『ヒヅメ』は係の人と手をつなぎました。

彼は『ヒヅメ』よりも、少しだけ年上の『毛のある人』です。


「手伝いに来た」

「ありがとう! 目が回りそうな いそがしさだ! ―――その人は誰?」

「『お渡しさん』だ。はぐれた『見守り』を探してる。そんなような人は、こっちに来ていない?」

「来てない……と思う! いそがしくてよくわからない!」

「そうだな。(わたしも)仕事を手伝うよ。何をすれば良い?」

「決まりごとの話を1回聞いても、よくわからなかった人たちの話を聞いてあげてくれる?」

「わかった」


『ヒヅメ』は『ウシどろぼう』の手をにぎりました。


「(わたしたちは)決まりごとがよくわからなかった人たちの話を聞く係になった。(あなたは)『西からにげてきた人たち』 の話を聞きながら、『見守り』について聞くと良い」

「わかった。ありがとう―――ここでの決まりごとを教えて? あと西の人たちの言葉も」

「わかった。いくぞ」

「うん。ありがとう。わかったよ」


手をつなげば、教えたいことの全部を、すぐに相手に教えることが出来ます。

言葉で順番に 「これはこうで、あれはああで」と、言わなくても良いんです。


「ごめん、聞いてなかった。今のところ、もう1回言って?」 と言わなくても良いんです。

本当はわかっていないのに、わかったような顔をして 「うんうん」 と言わなくても良いんです。


ちゃんと全部、1から10までわかります。

そしてそれは、全部忘れることも出来るし、忘れてもまた全部思いだすことも出来ます。


しゃべれない言葉だって、手をつないで教えてもらえば、すぐにしゃべれるようになります。

それはただ、頭でおぼえるだけではないからです。


人の心は頭だけでなんか、出来ていません。

指も、おなかも、足のうらも。

体全部をどう使うかが、その人の心なんです。


手をつないでおぼえられることは、ただ頭で知ることとはちがいます。

知らない言葉でしゃべるときの口の開き方、息の出し方、音の上げ方下げ方。

そういうことまで全部おぼえられるから、すぐにしゃべれるようになるんです。


手をつないで何かを教えるのは、とてもかんたんなんです。

それを、言葉で話して相手にわかってもらうのは、ちょっとたいへんです。

でも『西からにげてきた人たち』 は、手をつないで話をするのが 「気持ち悪い」 って言うんだから、仕方ありません。

『ヒヅメ』たちは係の仕事をはじめました。




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