3.西のほうから

西のほうから -1



『ヒヅメ』たちは穴の中を通って『西からにげてきた人たちのむら』にやってきました。

『西からにげてきた人たちのむら』は真っ暗です。


『ウシどろぼう』は『ヒヅメ』に聞きました。


「暗いんだね」

「ああ」

「ここにメガミさまは、ないの?」

「ある」

「メガミさまがあるのに、どうして暗いの?」

「メガミさまが作る電気よりも『西からにげてきた人たち』 が使う電気のほうが多いから、足りないんだ」

「地面の上には家を作らないの?」

「『西からにげてきた人たち』 は、西から追ってくる人たちから、隠れているんだ」

「その人たちに見つかったら、どうなるの?」

「西に連れ戻されるか、殺されてしまう」


『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』は砂浴びをして、むらに入りました。


2人が少し進むと、明るい場所に出ました。

広場です。

広場には、電気が通っています。

そこには人がたくさんいて、あちこちで話し声が聞こえます。

『西からにげてきた人たち』 は、手をつないで話をしません。

口を使って話します。


『ウシどろぼう』はそれを見て言いました。


「人がたくさんだ」

「ああ。逃げてくる人もいるし、ここで生まれる人もいる。『西からにげてきた人たち』 は、どんどん増えている」

「あなたたち『みずうみを守る人たち』は、何に困っているの?」

「『西からにげてきた人たち』 は、自分たちの暮らし方をしたいらしい。でも」

「でもここで暮らすなら、『みずうみを守る人たち』の決まりごとも、守ってもらわないといけないんだね」

「ああ。でも(わたしたちは)『西からにげてきた人たち』 の暮らし方も大事にしたい」

「そうか。西の暮らし方と東の暮らし方が、ぶつからないようにしたいんだね」

「ああ。でもそれを教えるのも、たいへんなんだ」

「『西からにげてきた人たち』 が手をつないでくれないから?」

「ああ。『西からにげてきた人たち』 は、手をつないで話すのは 「気持ち悪い」 って言うんだ。だから(わたしたちは)西の人たちの言葉を勉強して、西の人たちと話をしている」

「だから『ヒヅメ』も、西のほうの言葉がしゃべれるんだね」

「ああ」

「東の人の言葉もしゃべれるのは、どうして?」

「東から来る『お渡しさん』は、口で話をする人も多い。だから勉強した」

「おかげで助かったよ。ありがとう」

「ああ。でも(わたしたちは)言葉でしゃべるのは苦手だ。思っていることがうまく伝わらないことも多い。だから決まりごとを守らない人もいる。決まりごとを守らない人がいると、みんなが困る」

「なるほど。それで、この広場にいる人たちは、何をしているの?」

「西から逃げてきたばかりの人たちに、この穴の中での決まりごとを教えているんだ」

「『毛のある人』が多いね」

「ああ。『西からにげてきた人たち』 は、『毛のある人』ばかりだ」

「どうして?」

「西では『毛のない人』と『えらのある人』がえらいんだ。その次が『うろこのある人』と『羽のある人』だ。『毛のある人』はえらくないんだ。えらい人たちは良い暮らしが出来るけど、えらくない人たちは良い暮らしが出来ない。だから逃げてくる。『西からにげてきた人たち』 はそう言っている」

「う~ん。そうか」


穴の中での決まりごとを教える係の人が、大きな声を出しています。

係の人は『みずうみを守る人たち』です。

西から逃げてきたばかりの人たちは、列を作って並んでいます。


「ここでの決まりごとを聞いた人は、こっちの穴へ進んでください!」

「1回聞いたけどまだよくわかってない人は、このまま残ってください!」

「手をつないで話をしても良いよって人は、この穴から向こうの広場へ行ってください!」

「手をつないで話をすると、すぐに全部わかりますよ!」

「まだ話を1回も聞いてない人は、ここに来てください! 今から話をはじめますよ!」


『ヒヅメ』は『ウシどろぼう』の手をはなして、声を出しました。


「さぁ。(わたしたちも)係の仕事を手伝おう」

「わかった」




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