みずうみを守る人たち -6




『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』は、ある場所に着きました。

穴の中の畑です。

畑では『あたたかい木』を育てています。


『ヒヅメ』が言いました。


「着いたぞ。ここだ」

「あの木?」

「ああ。たのむ」

「わかった。じゃあ置いておくね」


『ウシどろぼう』は畑の中にある、1本の木に触りました。

そのとき、『キツネの人』がやってきました。

年を取った、じいさんのキツネです。


『じいさんキツネ』は、うんと小さい子供たちといっしょに穴の中を散歩していました。

このむらでは、じいさんやばあさんが、生まれたばかりの子供のめんどうを見ます。

子供を産んだ人は子供のめんどうを見ないで、若い人の手伝いをします。

若い人は、むらのこれからのことを考えたり決めたりします。

『みずうみを守る人たち』は、そんなふうにして生きています。


『じいさんキツネ』は『ヒヅメ』の手をなめたり、においをかいだりしました。

『じいさんキツネ』は、4本足の『かわいたキツネ』です。

4本足の生きものは、手をつなぐ代わりに、鼻や口を使って気持ちを伝え合います。


『じいさんキツネ』が『ヒヅメ』に言いました。


「『お渡しさん』が来てくれたのかい?」

「ああ」

「『新しいこと』を置いていってくれて、ありがたいなぁ」

「そうだな。(わたしたちは)新しいことを体に入れよう」

「うれしいことだね。ところであの『お渡しさん』の『見守り』は、どこにいるんだい?」

「『見守り』と、はぐれたらしい」

「そりゃまたどうして?」

「『むずかしい風』のときに、キノコで空を飛びたくなって」

「そりゃ ばか なことをしたな」

「そうだな」


『じいさんキツネ』は『ウシどろぼう』の手をなめました。


「このむらに来てくれてありがとう『お渡しさん』」

「あなたたちのむらの『お訳しさん』が帰ってきたら、ここに置いた『新しいこと』を見てもらってね」

「ああ。でもいつ帰ってくるかなぁ」

「わからない?」

「このむらの『お訳しさん』は1人で4つのむらを見て回ってるからなぁ」

「4つ? そんなの『お訳しさん』じゃなくて、『お渡しさん』じゃないか」

「『お訳しさん』が少ないんだから、仕方がない」

「うーん」

「でもこうやって、『お渡しさん』がたまに来てくれる。だから(わたしたちは)大丈夫だ」

「そうか。じゃあわたしに何か出来ることはある?」

「『お渡しさん』に話を聞いてほしい人はたくさんいるよ。その人たちの話を聞いてくれるかい?」

「わかった。でももう今日はつかれたから、眠りたいんだ」

「そうか。それじゃあ今日は(わたしや子供たちと)いっしょに寝よう。 むらの外の話をたくさん聞きたいんだ」

「いいよ、わかった」

「ありがとう。じゃあみんなで、くっついて寝よう。あたたかくて気持ちが良いから」

「そうだね。あなたの長い毛は、くっつくと気持ち良さそうだ」


その日は『ヒヅメ』も『ウシどろぼう』も『じいさんキツネ』も子供たちも、眠くなるまでみんなでくっついていました。

みんなでくっつけば、みんなでおしゃべりが出来ます。


『ウシどろぼう』が、なんで『ウシどろぼう』って名前なのか。

『ウシどろぼう』が住んでいたむらの人たちや、お祭りのこと。


『ウシどろぼう』が『お訳しさん』になりたいと思った日のこと。

むらに来た『お渡しさん』といっしょに『かえるところ』に行ったこと。


『ウシどろぼう』が、『かえるところ』で『お訳しさん』になったこと。

『お訳しさん』になって、自分のむらに戻ろうと思ったけどやめたこと。

『お訳しさん』じゃなくて『お渡しさん』になって、色んなむらに行くと決めたこと。


『ウシどろぼう』が、ずっと東にある『かえるところ』から、このむらにやってくるまでに見た、いろいろなこと。

『ウシどろぼう』は、そういうことをみんなに伝えました。


この時代の人たちは、自分たちのむらの周りで生きています。

むらの周りより遠い場所には行きません。

でもこうやって、むらの外から来てくれる人と手をつなげば、むらの外のこともわかります。


むらからむらを回って、みんなにむらの外の世界のことを教えてあげる。

それが『お渡しさん』の仕事です。



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