みずうみを守る人たち -5


『ウシどろぼう』の手を引いて歩いていた『ヒヅメ』は、ある人と会いました。

それは『ヒヅメ』より歳が上の、『毛のある人』です。


『ヒヅメ』はその人と長いあいだ、手をつないでいました。

『ヒヅメ』は右の手で『ウシどろぼう』と手をつなぎ、左の手でその人と手をつないで話をしていました。


『ウシどろぼう』は『ヒヅメ』の目で『ヒヅメと話している人』を見ました。

その人の顔は『ヒヅメ』に少し似ていると、『ウシどろぼう』は思いました。


『ウシどろぼう』は言いました。


「ねぇ『ヒヅメ』」

「………」


『ウシどろぼう』に呼ばれた『ヒヅメ』は返事をしません。

『ヒヅメ』は、『ヒヅメ』って誰のことを言っているのか、わからなかったからです。

今まで名前なんて持ってなかった『ヒヅメ』ですから、それも仕方ありません。


『ウシどろぼう』はもう一度『ヒヅメ』に話しかけます。

「わたしは今、あなたに話しかけているよ」 っていう気持ちを込めて。


「ねぇ。さっきの人って『ヒヅメ』のお母さん?」

「お母さん、って?」

「あなたを産んでくれた人のこと」

「わからない」

「そうか。このむらには『家族』ってないの?」

「ない。家族も言葉もいらないって、昔の人たちが決めた」

「あなたもそう思う?」

「ああ」

「なるほど。ところで、あの人となんの話をしていたの?」

「仕事の話だ」

「どんな仕事?」

「外に出て、湖の周りの命を見て回ることだ」

「あの人も、同じ仕事をしている人?」

「ああ。仕事のことで相談したいことがある、と言われた」

「そうか。たよりにされているんだね、あなたは」

「(わたしは)若いからな」


このむらに住んでいる人たちは『みずうみを守る人たち』と呼ばれています。

自分たちでそう言っているわけじゃありません。

周りの人たちが、そう呼んでいるだけです。


『みずうみを守る人たち』は、若い人がえらいんです。

えらいっていうのは、好き勝手わがままにして良いのとは、ちがいます。

えらいっていうのは、みんなのこれからのことを考えて良いってことです。


若くない人たちは、若い人たちをたよりにしています。

若くない人たちは、自分が知っていることや考えたことを、若い人たちに教えます。

それを知った若い人たちが、みんながこれからどうするのかを決めます。

若くない人たちは、若い人たちの言うことを聞きます。


それが『みずうみを守る人たち』です。




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