みずうみを守る人たち -3


たくさん歩いた『ヒヅメ』たちは、ようやくむらに着きました。

『ヒヅメ』たちのむらは、地面の下です。

でも地面の上にいる人たちもいます。


長い毛を持った、毛のある人。

かわいたキツネの、キツネの人。

鼻にぶちのある牛の、牛の人。

カサみたいなしっぽのリスの、リスの人。

これが、このむらの人たちです。


『キツネの人』、『牛の人』、『リスの人』は、見た目はそんなにキツネや牛やリスと変わりません。

でも、人と同じような考え方をしてくれる動物たちです。


『毛のある人』の子供と、『牛の人』の子供が、いっしょに玉を蹴って遊んでいます。

玉を蹴る遊びは、狭い地面の中よりも、広い地面の上でやるほうが良いです。


『キツネの人』と『リスの人』の大人たちは、穴を掘っています。

穴の周りをいつもキレイにしておくのも、大切な仕事です。

仕事につかれた人たちは座ったり、歌ったり踊ったりしています。


『ウシどろぼう』は玉蹴りもしたいし、歌と踊りもしたくて仕方ありません。

でも外から帰ってきたら、まず砂浴びです。


『ヒヅメ』たちは砂場に行って、砂の中に飛び込みました。

砂は、体についた『よくないもの』を落としてくれます。

砂の中にいる命が、ヨゴレを食べてくれたりもします。


むらの中に、むらの外の『よくないもの』を入れるのは、あまり良いことではありません。

むらの外からやって来た『ウシどろぼう』は、このむらの人たちにとって『よくないもの』を持っているかもしれません。

しっかりしっかり、砂浴びをします。


体のヨゴレや『よくないもの』を落とすのは、つかれまでいっしょに落ちるようで、とても気持ちが良いものです。

体のすみずみまで砂を付けたら、今度は砂を落とします。


砂を落としてさっぱりした『ウシどろぼう』は、『ヒヅメ』といっしょに玉蹴りに行きました(そして玉蹴りをして汗をかいたので、また砂浴びをすることになりました)。


2度目の砂浴びをした『ヒヅメ』が 「穴の中に入る」 と言ったので、『ウシどろぼう』もいっしょに行くことにしました。

でも『牛の人』は体が大きいので、穴の中には入れません。


『牛の人』は、地面の上のどこか好きなところで、好きなことをします。

日かげを探す必要はありません。

毎日くもりですからね。


『ウシどろぼう』は『ヒヅメ』の手をにぎりました。


「このむらの『お訳しさん』はどこにいるの?」

「いない」

「このむらには『お訳しさん』はいないの?」

「今はいないんだ。よそのむらに行っている」

「そうか。じゃあ渡せないなぁ。代わりに置いておく場所は決めてある?」

「ある。いっしょに行こう」

「ありがとう」


『お渡しさん』はむらの外のことを色々知っている人です。

『お渡しさん』は、自分が見てきたものを『お訳しさん』にも見せてあげます。

『お訳しさん』はそれを、むらのみんなに見せてあげます。


でもこのむらには今、『お訳しさん』はいません。

だから代わりの場所に、『ウシどろぼう』が見てきたものを、置いておくんです。


2人は穴の中に入りました。


『ウシどろぼう』はさっき『ヒヅメ』に、穴の中の様子を頭の中で見せてもらいました。

でも一度頭の中で見せてもらっただけでは、穴の中がどうなっているのか『ウシどろぼう』にはわかりません。


それぐらい穴の中は大きくて道が多くて、ごちゃごちゃしているんです(それに毎日、穴が増えたり減ったりします)。

やっぱり道は、頭だけではなく足のうらでおぼえるのが良いなと、『ウシどろぼう』は思いました。


穴の中で出会った人たちは必ず手をつなぎます。

そしてあいさつをしたり、おしゃべりをしたりします。

それから穴のどこが新しくなって、どこがなくなったのかを、聞いておきます。


そうしないと、ずっと穴の中に住んでる人だって、すぐに迷子になってしまうからです。

それでも迷子になったらどうするのかって?

新しい穴を掘って、地面の上に出るんです(ほらまた新しい穴が増えるでしょう?)。




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