2.みずうみを守る人たち

みずうみを守る人たち -1



左を見れば乾いた土地。

右を見れば大きな湖。

『ウシどろぼう』は牛の目を借りて歩きながら、それを見ていました。


湖には色んな命が集まっています。

『ウシどろぼう』は『ヒヅメ』と手をつなぎました。


「湖 昔の人 大きな 作った 湖 北 湖 湖 あって あなたたち なくなった 湖 湖 直す 見守って こわれ 自然 古い そのまま」


もしかして、わかりにくかったですか?

これは『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』が話しているところです。


『手をつないでする話』は、口と耳を使って話すときみたいに、どっちかがしゃべって、どっちかが聞く、なんてことはしません。

『手をつないでする話』は、ごちゃごちゃしているんです。

だって言葉なんて使っていないんですから。


話す順番もありません。

相手と自分の頭の中にある『伝えたいこと』を 「せーの」 でいっしょにひっくり返す感じです。

そうすると、相手と自分の頭の中にある『伝えたいこと』がまざり合います。

でもそんな話し方じゃ、あなたにはわかりにくいかもしれませんね。


じゃあ今度は、2人の『伝えたいこと』を順番に並べてみます。

そして足りないところには、言葉を少し足してみますね。

これが今さっき『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』が話していたことです(はじめに話しかけたのは『ウシどろぼう』です)。


「大きな湖だね」

「昔の人が作った湖だ」

「この湖があって良かった」

「北の湖はなくなったからな」

「あなたたちはこの湖を守っているの?」

「(わたしたちは)見守っているだけだ」

「この湖、こわれそうだね」

「ああ。古いからな」

「直すの?」

「こわれたらそのままだ」

「それが自然だね」


どうですか?

わかりやすくなりましたか?


でもね、わかりやすくなると、見えなくなっちゃうものもあるんです。

『ヒヅメ』と『ウシどろぼう』は本当はもっと、たくさんのことを伝え合っています。

だけどあなたにそれを、声とか文字だけで教えるのはむずかしいんです。


だからあなたは、忘れないようにしていてください。

わたしはあなたに、伝えられないものもあるってことを。




『ヒヅメ』と牛と『ウシどろぼう』はずっと歩いています。

『ヒヅメ』のむらはまだ見えません。

ずっと歩くのはつかれます。


でもそれは、ずっと歩いているから、だけじゃありません。

『ウシどろぼう』は 知りたがり です。

知りたいことがあると、すぐに立ち止まって 「あれは何?」 と『ヒヅメ』に聞くんです。

そして 「もっとよく見てみたい」 と言うんです。


そんな『ウシどろぼう』は立ち止まってばかりで、ちっとも前に進みません。

『ヒヅメ』は前に進もうとしているのに『ウシどろぼう』は立ち止まろうとします。

前に進みたい気持ちと、立ち止まりたい気持ち。

2つの気持ちがぶつかるときは、とてもつかれます。


だから『ヒヅメ』と牛は、前に進みたい気持ちを捨てて、すぐに立ち止まる『ウシどろぼう』の気持ちに合わせてあげることにしました。

『ヒヅメ』と牛の気持ちは、少しだけ楽になりました。




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