シシのアゴを走るヒヅメ -7


『かこいイヌ』たちは、何もしてきません。

ただ、彼女たちを見ているだけです。


でも彼女はこわくてこわくて仕方ありません。

だけど、少しでも弱っているところを見せたら、『かこいイヌ』たちがいっせいに飛びかかってきます。

彼女はふるえながら、でも勇気をふりしぼって『かこいイヌ』たちをにらみつけていました。


でもそれは『かこいイヌ』たちの思うツボなんです。

ずっと勇気をふりしぼっているのは、ものすごくつかれます。

だから、すぐに弱ってしまいます。

『かこいイヌ』たちは、彼女が弱るのを待っています。

『かこいイヌ』は、狩りの名人です。




どれくらいそうしていたでしょうか。


「もう良いよ。ありがとう」


『お渡しさん』がようやくそう言ったとき、『かこいイヌ』たちが弱った顔をしました。

だって『お渡しさん』の体の もよう が、さっきまでとぜんぜんちがうからです。


『お渡しさん』の体の もよう は『この辺りでいちばん小さくて強い生きもの』そっくりです。

それは『ドクトカゲ』です。


『ドクトカゲ』は、ものすごい毒を持っています。

誰だって『ドクトカゲ』を食べたら死んでしまいます。

だから『ドクトカゲ』は 「自分を食べたらいけないよ」 という もよう をしているんです。


『かこいイヌ』は、見つけた えもの はなんだって取り囲んで殺してしまいます。

でもそれは、食べるためです。

『食べたら死んでしまうもの』は取り囲みません。

死ぬのはイヤです。


『かこいイヌ』たちは、どこかへ行ってしまいました。


ずっと勇気をふりしぼって立っていた彼女は、その場にへたり込みました。

牛もとってもつかれています。

『お渡しさん』も、つかれています。


あなたは体の もよう を変えたことがありますか?

体の もよう を変えるのって、けっこうつかれるんです。


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