シシのアゴを走るヒヅメ -5




彼は湖の中で言いました。


「ねぇ。どっちに行けば、湖から上がれる?」

「(あなたは)目が見えないのか?」

「あぁ、ええと。わたしは、小さなものだけしか見えないんだ」


それで彼女は 「ああこの人は『お訳しさん』なんだな」 って思いました。

先に湖から上がった彼女は、『お訳しさん』に 「こっちだ」 と声をかけました。

『お訳しさん』は声のするほうへ進みました。


びしょぬれになった彼女は、毛を乾かします。

彼女は『毛のある人』です。

びしょぬれになった『お訳しさん』は、服を乾かします。

『お訳しさん』の体には、そんなに毛が生えていません。

『お訳しさん』は『毛のない人』です。


彼女は『お訳しさん』と手をつなぎました。


『遠くから来た人』と手をつなぐのは、本当はあまり良くありません。

『遠くから来た人』は、『よくないもの』を持っているかもしれないからです。

でも彼は『お訳しさん』だから大丈夫です。


この時代の人たちは、手をつないで話が出来ます。

手をつないで話すときは、声を出しません。

手をつなげば相手の言いたいことや、言葉に出来ない気持ちもわかります。


彼女は『お訳しさん』にケガがないかどうか、心配しました。

『お訳しさん』は 「ケガはない、どうもありがとう」 と伝えました。

彼女は『お訳しさん』の『見守り』はどこにいるのかと、不思議に思いました。

『お訳しさん』は、『見守り』とはぐれてしまったときのことを思い出しました。

手をつないでいれば、相手が思い出したことを、いっしょに見ることが出来ます。




それはまだ『お訳しさん』が、キノコで空を飛ぶ前のことでした。


『お訳しさん』は 「『空飛ぶキノコ』で飛ぼう」と、『見守り』に伝えました。

『見守り』は 「『むずかしい風』があるからムリだ」と、『お訳しさん』に伝えました。

でも『お訳しさん』は 「本当にムリなのか知りたい」と、『見守り』に伝えました。


この『お訳しさん』はどうしようもない 知りたがり です。

この『お訳しさん』は、なんでもかんでも知りたがるんです。


『見守り』は 「わかったわかった」と、『お訳しさん』に伝えました。

そして『お訳しさん』と『見守り』は、キノコで空を飛びました。


でも『むずかしい風』が吹いて、『見守り』はどこかに飛ばされてしまいました。

『お訳しさん』も『むずかしい風』に吹かれて、ここに落ちてきました。




これが、『お訳しさん』が『見守り』とはぐれてしまった理由です。


そして『お訳しさん』は 「わたしは『お訳しさん』じゃなくて『お渡しさん』だよ」 と彼女に伝えました。


『お訳しさん』は、色々なことを知っていて、色々なものが見える人です。

ふつう、『お訳しさん』はどこのむらにも1人はいるものなんです。

『お渡しさん』は、むらからむらを渡り歩いて、色々なことを教えて回る『お訳しさん』です。


『お訳しさん』も『お渡しさん』も色々なものが見えます。

でもみんなと同じものは見えません。

だから石につまずいて、転んでしまうかもしれません。


『見守り』は、『お訳しさん』や『お渡しさん』が転ばないように、すぐそばで見ていてあげる人です。

この『お渡しさん』は、その『見守り』と、はぐれてしまったようです。

それも 「『むずかしい風』のときに、キノコで空を飛んだらどうなるか知りたい」 なんていう理由で、です。




そこへ、たくさん走ってつかれていた牛が、おくれてやって来ました。

彼女は牛の鼻先に触って 「大丈夫か?」 と聞きました。

牛は 「それよりも、はやく逃げよう」 と彼女に伝えました。

牛は自分が見たものを彼女に見せました。

牛は『かこいイヌ』を見たのです。




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