シシのアゴを走るヒヅメ -4
キノコです。
キノコにつかまった人が、空から落ちてきます。
『空飛ぶキノコ』につかまって空を飛ぶ人はいます。
でも『むずかしい風』が吹いているときに空を飛ぶ おばかさん はなかなかいません。
キノコにつかまった人は キノコのかさ のおかげでゆっくりと落ちてきます。
でもそのまま地面にぶつかったら、きっと骨が折れるでしょう。
キノコにつかまったあの おばかさん は骨を折ってみたくて、あんなあぶないことをしているのかもしれません。
もしそうだったら、このまま見守ってあげたほうが良いのかもしれません。
でも彼女はあの おばかさん がどういうつもりで今あんなことになっているのかを、知りません。
だから牛にたくさん走ってもらいます。
そして出来るだけ おばかさん のそばに近付きます。
彼女は声を出しました。
でもその前に、あなたに1つだけ言っておきます。
彼女は『わたし』とか『あなた』って言葉を使いません。
どうして使わないのかは、あとで話しますね。
「『むずかしい風』が吹いているときに空を飛ぶなんて、(あなたは)もしかして骨を折りたいのか?」
おばかさん は東の空から飛んできたので、彼女は東の言葉を使いました。
でも おばかさん は彼女の言葉がわからないかもしれません。
彼女は 「言葉が伝わらなかったらどうしよう」 と思いましたが おばかさん は声を出してこたえました。
「それも良いかもしれない! 空から落ちて骨を折ったらどうなるのか知りたいかも! でも今はやめておくよ!」
「(わたしも)それが良いと思う! ―――(あなたはわたしの)助けが必要か?」
「う~ん、どうだろう! 落ちても痛くない場所、どこかにないかな?」
「ない! この辺りには、地面か湖しかない!」
「じゃあわたしを、湖まで連れて行ってほしい! 考えがあるんだ!」
「わかった! でもどうやって?」
「今、『ハタオリグモ』をそっちに行かせるよ!」
おばかさん がそう言うと、彼の体からたくさんの『ハタオリグモ』が降ってきました。
『ハタオリグモ』は、糸をたらしながら降ってきます。
『ハタオリグモ』って、服を作ってくれるクモのことです。
いつも服にくっついています。
彼女は、降ってきたクモたちを肩に乗せました。
クモたちが伸ばすたくさんの糸は、彼女と彼をつなぐ ひも になりました。
彼女が走ると、ひもでつながった彼も同じ方向についてきます。
「さあ、そのひもでわたしを引っ張って、湖まで走って!」
「わかった!」
湖はここから少し はなれたところにあります。
そこまで走るのは、彼女ではありません。彼女が乗っている牛です。
彼女は牛の鼻先に触って 「湖まで走れるか?」と、声を出さずに聞きました。
牛は彼女の手をなめて 「がんばる」と、声を出さずに言いました。
牛はたくさん走りました。
牛と彼は、ひもでつながっています。
牛が走っているあいだは、空飛ぶキノコにつかまっている彼は落ちません。
でも牛が止まってしまうと、彼は落ちてしまいます。
彼女は彼に言いました。
「でもこれで湖に行ったって、水に体がぶつかったら、(あなたの)骨が折れてしまうぞ!」
「クモたちは今、何をしている?」
「クモ?」
彼女は『ハタオリグモ』たちを見ました。
クモたちは、みんなでクモの巣を作っていました。
クモの巣は、どんどん大きくなっていきます。
彼女は彼に言いました。
「クモたちは今、大きなクモの巣を作ってる!」
「良かった! じゃあそれを湖の上に広げてくれる? わたしはその上に落ちるよ!」
「わかった!」
牛はいっしょうけんめい走りました。
でも牛はそんなにはやく、そして長く走れません。
湖まではあと少しです。
でも牛はつかれてしまいました。
牛が走るはやさは少しずつおそくなり、さいごには止まってしまいました。
でもまだ彼は、落ちてきません。
それは牛から降りた彼女が、ひもを持って走っているからです。
湖まであと、ほんの少し。
彼女はひもを持ったまま、湖に飛び込みました。
そしてクモたちが作った大きなクモの巣を、水の上にうかべました。
「出来た! (わたしは)クモの巣を、水に広げた!」
「ありがとう!」
彼の体は、大きなクモの巣にぶつかって、それから水の中に落ちました。
クモの巣が、彼の体をやわらかく受け止めてくれたおかげで、彼は骨を折らずにすみました。
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