シシのアゴを走るヒヅメ -3

彼女は空を見上げます。今日もくもりです。

たぶん明日もくもりです。昨日もくもりでしたから。


あの雲の中にも、火山の灰がまじっています。

雲がうすくなって、空が見える日もありますが、それはとてもめずらしいことです。

そしてそれは、あまり良いことではありません。

空が見えて晴れになると、この土地も遠くの土地も全部寒くなってしまいます。

それに晴れの日の光は、命を焼いてしまう光です。


灰が多すぎる日は、外に出られません。

雲が少なすぎる日も、外に出られません。

灰がそんなに多くなくて、ちゃんとくもっている日が、外に出ても良い日です。


今日は灰も少なくて、空も見えない『良いくもり』です。

彼女たちがいう『空』は、くもり空のことです。

晴れの空になったらもう、誰も生きていくことは出来ません。





彼女は東の空に、『小さな点』があるのを見つけました。

鳥でしょうか?

鳥はもっとしっかり飛びます。

『小さな点』は、弱弱しく飛んでいます。


『空の向こうからやってくるもの』でしょうか?

わかりません。

『空の向こうからやってくるもの』のことは、彼女も知っています。

でも見たことがあるものとは、ずいぶん形がちがいます。


空飛ぶ『小さな点』は、だんだん下りてきます。

下りてくるというより、落ちてくると言ったほうが良いかもしれません。

それはきっと『むずかしい風』が吹いているせいです。

空から落ちてくる『小さな点』は、だんだんと大きくなります。





それが人だとわかった彼女は、牛に乗って走りだしました。



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