シシのアゴを走るヒヅメ -2

彼女は『鼻にぶちのある牛』に乗っています。

彼女は服を着ていないかわりに、長い毛が生えています。

長い毛があると暑くないのかって?

彼女の毛は、彼女の体を暑さや寒さから守ってくれます。


彼女も、この暑くて乾いた土地に生きている命のひとつです。

だから水飲み場を見つけるのが上手です。

彼女は水飲み場を見つけると、牛から降りました。

でも水を飲むためじゃありません。

彼女は水の中に、どんな命が生きているのかを調べます。


まずは、水をよく見てみます。

色とか、透明さとか、目に見える生きものの数とか。

次に、水を手ですくってみます。

その中に生きものがいるかどうかをよく見ます。


そのあと、水のにおいをかぎます。

それから、その水をなめてみます。

そうしたら、水の中に入ってみます。

水の中にコケがいないか、足のうらで確かめます。


さいごに、ちょっとだけ水で遊びます。

これは、遊んでいるけど遊んでいるわけじゃありません。

ここが『たのしい水飲み場』か『つまらない水飲み場』かを、調べているんです。

水飲み場は、ただ水を飲むだけじゃなくて、遊んでたのしいほうが良いんです。

この水飲み場は、彼女が前に調べたときよりも、少しだけ『つまらない水飲み場』になっていました。

水が少なくなり、くさくなったからです。


彼女は、水から上がりました。

長い毛をふるわせて、水を飛ばします。


それから彼女は土をちょっとすくって、命の数を数えます。

生きものがいたらつかまえて、元気かどうかを見ます(つかまえた生きものをそのまま逃がしてやることもありますし、そのまま食べることもあります)。


土をよく見て触ると、そこで命がどんなふうに生きているのかがわかります。

土地の形が変わっていないかどうかも、気をつけて見ます。

土地の形は毎日少しずつ変わって、いつか大きなものも、なくなってしまいます。


たくさん調べたので、彼女と牛は、少し休みます。


暑くて乾いた土地も、いつも乾いているわけではありません。

今は雨がぜんぜん降らないので、乾いているんです。

大きな生きものは、木や水が多い土地に行っています。


でも雨が降るようになれば、彼らもまた、ここへ戻ってきます。

あんまり遠くへ行けない小さな生きものは、ここで食べものや飲みものを探したり、寝ていたりしながら、雨が降るのを待っています。


土には『べんりなもの』が、たくさんまじっています。

『べんりなもの』は、海から風に乗ってやってきます。

『べんりなものを食べるあたたかい草』があたたかい空気を出しています。

彼女は『あたたかい草』に触ります。


この土地が暑いのは、『あたたかい草』のせいでもあります。

でも彼女は『あたたかい草』を、ぬいたりしません。

だって暑くないと、寒くなってしまうからです。


この土地のあたたかい空気は、遠くの土地に運ばれて、そこをあたためます。

だからこの土地は暑くないと、いけないんです。

自分だけがすずしくなりたいからって、『あたたかい草』をぬいてしまうのは、なんだかちょっとちがうんです。

遠くの命のことも考えて生きるのは、少しだけむずかしいんです。


風に乗ってやってくるのは、『べんりなもの』だけではありません。

火山から出る灰も、風に乗ってやってきます。

昔は火山の灰が本当にたくさん降っていて、ほとんど外に出ることが出来ませんでした。

でも今は、灰が多い日は、たまにあるくらいです。

今日は灰が多くない日なので、彼女は外に出ています。



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