1.シシのアゴを走るヒヅメ

シシのアゴを走るヒヅメ -1

これはあなたたちとはちがう時代、わたしたちの時代のお話です。

わたしはあなたと手をつないだ人です。

わたしと手をつないでくれてありがとう。

これからあなたに『あるお話』を見せます。

わからないことがあれば、わたしになんでも聞いてくださいね。


でも、もしあなたが 「こんな話、もう見たくない」 って思ったら、わたしはお話をおしまいにしますね。

あなたは、ただ思うだけで良いです。

そうすれば、わたしはわかります。

このお話を見ないと決めること。

それはあなたの気持ちです。

わたしはあなたが教えてくれる気持ちを、大切にしたいと思っています。



                  ・



彼女は名前を持っていませんでした。

あの人に会うまでは。




東と西がぶつかって割れる場所。

ここは、暑くて乾いた土地です。

背の高い木はあまりなくて、短い草ばかり生えています。

北にあった砂漠は、あれから南に下りてきています。

北にあった大きな湖は、もうありません。

火山の列は、今日も煙を上げています。


もう少ししたら、ここも砂漠になってしまうかもしれません。


あなたが誰かに、ここに連れてこられたとしましょう。

そして、はだかでひとりぼっちにされたら、きっと困るでしょう。

あなたは食べるものも飲むものも見つけられず、苦しい思いをするでしょう。


でも安心してください。

ここの天気は毎日くもりなので、太陽に焼かれる心配はありません(くもりでも、とても暑いですけどね)。

それになにより、あなたがとつぜんここに連れてこられることなんて、ないんですから。

時間旅行が出来れば、こられるかもしれませんけどね?


あなたがここに来ることは、今のところありません。

でも、今日ここに生きている命がいるんです。それもたくさん。

食べものも飲みものも、見つけにくいだけです。ないわけじゃありません。

ここに生きている命たちは、見つけにくいものを見つけるのが上手です。

命は今日も、ここで生きています。


それを見守るのが彼女の仕事です。


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