第13話 なぜか凛と眠ることに

「うーん、団長さん」


 凛は完全に寝ぼけているようだった。まるで夢遊病のようだ。無意識に徘徊しているようだ。恐らくはトイレにでも起きてここまで来だのであろう。

自分の部屋に戻る時、間違えて俺の部屋に来てしまったというわけだ。


「り、凛!」


「あれ? おかしいな。夢の中なのに団長さんがいるよ。ふふふっ。変なの」


 凛は寝ぼけ眼で言ってくる。夢の中じゃないんだ。正真正銘の現実なんだ。


「よっと」


「う、うわっ」


 凛が俺がいるベッドに潜り込んできた。予想外の事態だ。

 嬉しい気持ちもあるが、俺は社会的に抹殺される恐怖に震えた。凛に何かしたかと思われたら俺が社会的に抹殺。いや、それどころか事故死に見せかけて暗殺されるかもしれないのだ。


「……へへっ。夢の中の団長さん、温かい」


 寝ぼけた凛は俺を羽交い絞め始めた。まるで俺を抱き枕か何かのように思ったのであろう。


 ま、まずい。このままでは。俺から出ていこうにも出ていく事ができなくなる。


 柔らかい感触が走った。背中に柔らかい二つの膨らみ。


 し、しかもこれはあれだろう。完全に生の感触だった。女性には二種類のタイプがいるという。寝る時はノーブラ派とブラをつけて寝る派だった。凛は前者だった様子だ。


 ま、まずい。


 流石に男として何の興奮もするなというのも無理な話であろう。この状況はまずかった。

 

 だけど何かしたら俺は死ぬ。間違いなく。俺はあの執事の柳さんに殺される。


 だから俺は必死に堪える。


 そしてこんな状況で眠れるわけがなかった。興奮してとても眠れそうにない。


 眠れない夜は続く。


 チュンチュン。


 次第に朝日が差し込んできた。朝になったようだ。


「はっ! 今日のデイリークエストを消化しないと!」


 凛もまた、俺と同じソシャゲ廃人の様子だった。朝日の光が差し込んでくると同時に起きる。


「あれ? ……団長さんがいるよ。どうして団長さんが私の部屋にいるの?」


 寝ぼけた凛が聞いてくる。


「い、いや。ここは俺の部屋だよ。俺の部屋って単に借りてるだけだけど。寝ぼけた望月さんがこの部屋まで来たってだけで」


「ふぁ~……なんだ。団長さんの部屋で寝ちゃったのか。間違えちゃった」


 凛は背伸びをする。


「おはよう、団長さん」


 笑みを浮かべる。天使のような笑みだ。


「おはよう、望月さん」


 その笑顔を見れただけで今日の気だるい一日も何とか頑張れそうになっていた。


「せっかくだし、早めに朝御飯食べてから学校行こうか」


「あ、ありがとう。食べさせてもらえるなら嬉しいよ」


 朝御飯とは言っても、凛の家の朝御飯だからな。トーストにベーコンエッグみたいなうちの朝食とは違って、もっと豪華でおいしいものなんだろう。


 トーストひとつとっても一級品のものが出てくるに違いない。こんなトースト今まで食べたことがないと感激するような一品が。


「……それじゃあ。行こうか。んっと」


 凛はベッドから飛び降りる。


「望月さんは不安じゃないの?」


 俺は思わず聞いてしまった。


「何が?」


「望月さんの間違いとはいえ、男と一晩一緒に寝たんだよ。変な事されたとか、不安にならないの?」


「はははっ……団長さんはそんな事する人じゃないよ。じゃあ、私は部屋で着替えて、食堂に行くから」


 凛はそう告げてその場を去っていった。


 それは信用されているのか。あるいは男として意識されていないのか。


 俺は思わずため息をつかざるを得なかった。


 ともかく俺は身支度を整え、食堂へと向かうのであった。

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