第12話 なぜか凛が部屋に入ってくる
「うはぁっ! な、なんですか! この豪勢な料理は!」
俺は食卓に並んで料理の豪華さに驚いていた。ここがどこぞの高級フランス料理店で、そこのフルコースを頼んでいるのだとしても一切俺は疑わなかったであろう。
色とりどりの料理はどれも高級そうだったし、美味そうだった。
「ふふふっ。大袈裟だよ。団長さん。普通の晩御飯だよ」
凛は笑みを浮かべる。
いや、普通の晩御飯だとは思えないんだけど。
「……こんな晩御飯普通の晩御飯じゃないよ。どこかのシェフが作っているとしか思えないよ」
「うーん……確かに海外の専門店で修行してきたシェフさんが作っているから、団長さんの言っている事は正しいよ。けど、それって別に普通の事じゃない?」
いや、普通じゃないよ。普通の家庭にはシェフなんていないんだよ。大抵の場合、お母さんが料理を作るもんなんだよ。
やはりブルジョアと庶民である俺とではそもそも住んでいる世界が違うのだ。常識も価値観も違いすぎる。凛にとっての『普通』は俺にとっての『普通』ではない。
だから俺はカルチャーショックを受けっぱなしであった。つくづく俺にとって凛は遠い人だ。近くにいるけど遠い。届かない人物なのだと理解した。
だから、だからこそせめて学園で気兼ねする事なく、話せるくらいの関係になりたい。自分のスクールカーストの順位を上げたい、そう思ったのだ。
勉強はその為の手段のひとつにすぎない。
こうして俺は晩御飯を食べた。そして、風呂に入ったのだ。勿論一人でだ。
これまた宮廷にあるような広い風呂だった。正直銭湯なんかより広いくらいの風呂だた。
爽快感があり気持ちのいい入浴をした後、俺は柳さんに案内された個室に向かう事になる。
「……菊池さま」
執事の柳さんに睨まれる。
「は、はい! なんでしょうか!」
「こうして、屋敷に泊めるだけでも温情行為なのですよ。お嬢様がどうしてもというのだから。いくらご友人とはいえ、殿方を屋敷に泊めるなど本来あってはならない事なのです」
「は、はぁ……それはその通りです。感謝しております」
「ですから、お嬢様の部屋に夜這いになど行かれませんように。もし行かれてお嬢様を傷物にするような事があったら」
「あったら?」
「聞きたいですか?」
睨まれる。怖い。ドスの利いた声で言ってくる。
「い、いえ! 聞きたくありません! 絶対に凛お嬢様には何もしないと心に誓います!」
「よろしい……では健やかなる眠りを」
そういって柳さんはその場を去っていった。
「ふう……」
柳さんは怖い人ではない。ただ凛の事を第一に考えているだけだ。言っている事はまともだ。普通は若い男を屋敷に泊めたりなんかしない。
凛の思考が緩いんだ。お嬢様だからもしかしたら邪悪な存在に疎いのかもしれない。性悪説というものを知らないのだろう。
男の怖さを知らないのかもしれない。それが凛の唯一の欠点だった。彼女は完璧なように見えて、やはり常識がないのだ。それが彼女の危うさになっている。
「まあいい。寝よう……」
明日は早いんだ。学校なんだ。月曜日だから。早めに起きて家に行って、着替えてそれから学校に行かないとだから普段より手間と時間がかかるんだ。
だだ広い部屋だから落ち着かないけど、とにかく明日のために寝るしかない。俺はベッドで眠りに着こうとしていた。
――と、その時だった。
ドアが開く音がした。
ガチャリ。
なんと、そこに居たのはパジャマ姿の凛だった。
「凛!?」
僕は声を張り上げた。
真夜中に突如、凛が部屋に入ってきたのだ。
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