第11話 お泊りをすることに

「……んんっ!」


 はっ! 俺は目を覚ました。既に夕暮れ時になっていた。夕日が差し込んできている。

 時計を見て時間を確認するまでもない。俺はそれなりに長い時間眠っていたようだ。


「おはよう、団長さん。随分と眠ってたね」


 凛は笑みを浮かべる。


「団長さんの寝顔、結構じっくりと見れちゃった」


「す、すまない。望月さん。俺、眠ってた」


「うん。ぐっすり眠ってたもの。よっぽど疲れてたんだね。ふふふっ」


凛は笑みを浮かべる。


「ごめん、俺。望月さんと勉強するつもりでここに来たのに、なのに居眠りなんてして」


「なんで団長さん、そんなに眠かったの? 夜眠れなかったの? ゲームのやりすぎ?」


「ち、違うんだ。ソシャゲは……勿論してたけど」


 してたんかい! と俺は脳内で自分突っ込みをする。せめて勉強してたって方がマシだった。


「それは眠れなかったからであって、ソシャゲをしていたいが為に、眠らなかったわけじゃないんだ」


「なんで眠れなかったの?」


「そ……そんなの決まってるじゃないか。俺は――君と」


「君と?」


「君と一緒に勉強できるのが嬉しすぎて、わくわくして興奮して眠れなかったんだよ」


「……大袈裟だね。そんな遠足前の子供みたいな」


 遠足前の子供。そうだ。俺の状態は完全にそうだった。俺は遠足前の子供だったんだ。

けど大袈裟なんかじゃない。俺にとって凛と勉強する事はそれだけ大きなイベントだったんだ。


「ふう……まあ、今日はこのくらいで終わりにしようか。団長さんも眠そうだし」


「だ、大丈夫だよ。俺はやれるよ」


「外、もう暗くなるよ? 団長さんはどうするの?」


「外……暗く、そうか」


 もう夜になるんだ。夜になれば普通の生活リズムだったら、食事をとるなり、風呂に入るなりして、それでテレビでも観て、適当な時間。10時とか11時には眠るものなんだ。


 友達の家からは普通、夕食前の六時には帰るものだ。


「それとも泊っていって勉強続ける?」


「本当にいいのか!?」


俺は驚いた。まさか凛の家に泊まれるなんて。一つ屋根の下。とはいえ凛の屋敷は集合住宅より大きいからあまりそんな感じはしないが。


「うん。団長さんがいいっていうなら。お泊まりで勉強会なんていうのも楽しそうだし」


「望月さんがそれで構わないなら俺も構わないけど」


「うん。決まりだね。けど団長さんも未成年なんだし親御さんの許可は取った方がいいよ」


「そうだね。連絡するよ」


俺はLIN○でメッセージを送ったのだ。


『ごめん、母さん。今日友達の家に泊まるから』


母にメッセージを送るとすぐに返事があった。


『あら!? あんた友達なんていたの!?』


酷い母親だ。だけど確かに俺が友達なんて驚くべき事であろう。


『いるよ。最近、ネットで知り合った友達だよ』


『そう。マルチ商法の勧誘だったり、変な壺高い値段で買わされたりしないでよね。気をつけなさい』


母から忠告された。どれだけ信用ないんだ。まさか女の子の家だとは夢にも思っていまい。無理もない。俺が女の子の家にお泊まりするなんて自分でも信じられていないんだ。


「どうだった? 団長さん」


「マルチ商法とかに騙されないようにと釘は刺されたけど、一応OKだったよ」


「ははは」


凛は苦笑いをしていた。


「じゃあ、柳さんに空き部屋まで案内してもらうね」


 そうだな。当然のように同じ部屋で寝るわけないよな。その方がいい。同じ部屋で寝るなんてメンタルが持たない眠れなくなる。

これだけ広い屋敷なら部屋も余ってるだろうし。


「後は食事とお風呂だね。適当な時間になったら晩御飯食べてお風呂に入ろうか」


「ま、まさか。一緒に」


凛と一緒に入浴するのか。一瞬、脳裏に過ってしまった。けど、まさか、そんなわけがない。


「ははは。団長さん、なんか変なこと考えてない?」


凛は笑った。


「な、なんでもないよ」


 女の子の家に泊まるのに変な事を考えるなというのも無理な相談だろう。


 ともかく、今日の夜はこうして凛の家ーーたいうやり屋敷に泊まることになったのである。

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