第10話 二人だけの勉強会
「うっ……」
俺は凛の部屋に入った。思ったよりも広くはない、普通の部屋だった。それでも一般家庭の私室に比べれば広い方なんだとは思うが。
やはり女の子の部屋だった。可愛らしいぬいぐるみだったり、全体的にピンク基調のインテリアが並んでいる。
それに良い匂いがした。何となくではあるが、女の子の匂いがした。
感動的だった。今まで一度たりとも女子の部屋になど入った事がないのに。初体験だ。
未知の体験をした事により、感動のあまり涙があふれ出てきた。
「どうしたの? 団長さん。なんで泣いているの?」
凛が怪訝そうに泣いてくる。女子の凛からすればわからないであろう。凛からすればいつもの部屋に帰ってきただけだ。だが、俺にとってはこの部屋に入る事は特別な行為だったのだ。
「な、何でもない」
俺は涙を拭う。そうだ。いつまでも泣いていては凛に迷惑だ。事が進まない。俺は凛の部屋に中間試験の勉強をしにきたのだ。
「さ、勉強しよう。団長さん」
「ああ。そうしよう」
俺達は部屋の中央にある丸テーブルに参考書と問題集を並べ始めた。
◇
「ここはこうで……ああで」
「はぁ……」
勉強は退屈だ。だけど、凛がいると頑張れる気がする。学問とは割と苦痛なものだ。やはり必要なのは忍耐か。確かに喜々として学校の勉強している子供は少ない。大抵が「なぜ自分はこんな事をしているのだろう?」と疑問に思いつつも大人の圧力に従って机に縛られているに過ぎない。
しかしその苦痛も凛と一緒にいられる口実になっているとすれば捨てたものではなかった。俺は今、この瞬間に感謝をしている。良い匂いがする。凛の可愛い顔を近くで見られるだけで幸せな気分になれるし、肌だって触れそうな程近くにある。
この瞬間は間違いなく俺にとって幸せな時間であった。
「うっ……」
凛に勉強を教わっている最中、俺はある事に気づいてしまう。
「どうしたの? 団長さん」
「な、何でもない」
凛はその時、薄手のワンピースを着ていた。その為、近くまで来ると胸元がよく見えるのだ。谷間が見えてしまう。凛はそんなに巨乳というわけではないから、その……うっかりすれば先端が見えてしまうかもしれないのだ。
先端とは何か? 詳しくは言うつもりはないが。
「……ここはこうで」
俺は思わず鼻息を荒くして顔を真っ赤にしていた。心ここにあらずだった。
「もうっ! 団長さん! ちゃんと聞いてるの!」
凛は怒った。その時俺が思った事は怒っている凛の表情も可愛いだった。珍しい表情だったので、怒らせた事自体は申し訳なく思うが、何となく感激でもあった。
「ご、ごめんっ! ちゃんと聞くから」
「ちゃんと聞いてよねっ。もう、団長さんが勉強にやる気を出してきたから人肌脱いでるのに」
凛はため息を吐いた。そうだ、これは俺の為だ。凛と対等になるため。恋人なんてどうやったって無理だ。カースト順位が違いすぎる。
恋人同士っていうのは学園カーストが対等にならないとなれない。だけど普通に会話をしてなんともないレベルだったら、対等じゃなくてもいいんだ。
例えば生徒会の役員として一目置かれているとか、野球部のレギュラーとか、学年順位が10番以内とか。それでも俺からすれば十分ハードルが高いが。
そういう存在になれれば俺はきっと学校でも凛と普通に接する事ができるはずだ。普通に会話もできるはずだし、何なら昼ご飯だって一緒に食べたり、図書館で一緒に勉強したり、そういう存在になれるはずだ。
だから今やっている事は全部俺の為になっているはずだ。
俺は次第に雑念を消し、勉強に集中し始めた。
その時だった。
「あ、ごめん」
俺は消しゴムを落とした。消しゴムは転がり、ちょうどテーブルの下ら辺に落ちる。
「消しゴム拾うから凛は一人で勉強してて」
「う、うん。わかったよ。団長さん」
俺はテーブルの下に潜り込んだ。
「うっ……」
俺はその時、見てはいけないものを見てしまった。凛の太ももの間にある光景。白色のもの……リボンが見えた。
こ、これは――何かまでは言えないが。まずい、まずい状況だ。
いけない。凛をそういう目で見てはいけないのに。
「や、やべっ!」
俺は立ち上がった。
ガン!
頭をぶつける。俺はテーブルの下に居たのだ。立とうとすれば当然テーブルに頭をぶつける結果となる。
「だ、大丈夫!? 団長さん!?」
凛が慌てた。
「ご、ごめん……なんでもない。なんでも」
やばいやばい。思わず色欲に惑わされそうになった。せっかく振り払った雑念がまた湧いてくる。
俺は勉強に再び取り掛かる。
その時だった。
「や、やばい……」
睡眠不足のツケがやってきた。俺は寝落ちしてしまう。意識がなくなってきた。
「だ、団長さん!?」
俺はこうして、凛と勉強している最中、夢の国へと旅立つのであった。
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