第9話 勉強会の為、屋敷を訪れる
「……な、なんだこれは?」
目の前にあるのは豪邸だった。なんか博物館とか、そういう施設みたいに見える。格式高い建物って言うのはそうなんだろう。
もはや住居というよりは世界遺産を見ているかのようだった。これが同じ人間の住居なのか。俺が知っている家じゃない。
流石は筋金入りのお嬢様だ。望月凛。半端ではない。結構覚悟をして家を訪れたのだが、それでも度肝を抜かれている自分に気づいた。
突っ立っていても仕方がない。時間だけが過ぎていく。待ち合わせの時間に遅れるわけにもいかなかった。
俺は門の近くにあるインターホンを鳴らした。何なんだ、門って。普通の家には門なんてない。やはり凛の事は普通の、一般人の物差しでは計れなかった。彼女のスケールはあまりに大きすぎるのだ。
俺の常識なんて小さい物差しで計る事がそもそもの間違いだ。
ピンポーン。音が鳴る。
『団長さん!』
凛の声がした。モニターに凛の姿が映る。
『ごめん、早かったかな』
凛と早く会いたい気持ちが強く、ついつい俺は待ち合わせ時間より早く来てしまった。大体15分程だ。
あまりに凛と一緒に勉強する事を気にしすぎた結果、夜もあまり眠れていなかったのだ。正直寝不足だ。勉強能率は大きく低下しそうだが、何とか気合でカバーするより他にない。
『ううん。そんな事ないよ。待っててね。今執事さんが迎えにいくから』
な、なんかこの子、さらりととんでもない事を言ったぞ。執事さんが迎えに行くからって。当たり前の事のように言っていたぞ。恐らく凛は普通の家にも執事がいるものと勘違いしているかもしれない。
そんな執事なんていないんだよ家庭には。お手伝いさんとか、そういう文化は日本には馴染みがないんだ。海外ならある国もあるが。日本でそういう執事だったりメイドだったりを雇えるのは一部の金持ちだけだ。
そうだ。凛の実家がそういう一部に分類されるだけだったのだ。
「お待たせしました。菊池様」
渋い執事のおじいさんが出てきた。おじいさんとは言っても中年太りをしておらず、背丈もあるため若々しい。白髪に髭を生やしているのだが、なかなかに様になっていた。
「お嬢様がお待ちです。中にお入りください」
俺は執事さんに連れられ屋敷の中に入っていくのであった。
◇
「団長さん、来てくれてありがとう」
物凄い豪華な玄関だった。外装も豪華だったが、内装も豪華だ。やはりどこかの宮廷にでもいる気分であった。
何にもまして、私服の凛の姿が眩しかった。凛はこの前と同じくワンピースを着ている。あまり服には詳しくないのだが、それなりの高級品なのだろう。どこぞのブランド品なんだろう。シャネ〇とか。そこら辺の。
推測に過ぎない。俺は庶民なのであまりブランド品に対する教養がないのだ。
屋敷の内装も豪華で思わず目移りしてしまうが、やはり私服の凛を見れるのが俺にとって何よりも幸せな瞬間だった。
学園の女神様の私服を見れる。しかも学園の生徒では見れるのは俺だけだ。その事に俺は少しばかりの優越感を覚え、幸せな気分に浸れたのだ。
俺は思わず緩んでしまいそうになる表情を何とか引き締める。
「こっちこそ呼んでくれてありがとう。グロブルはともかく、『勉強』という分野では凛の方が遥か高みにいるんだ。凛は俺にとっての先生だ。俺の事は団長ではなく、一生徒として接して欲しい」
「はは……そんなわけにはいかないよ。団長さんは団長さんだよ。それに、私だって勉強はわからない事だらけだよ。一緒にがんばろ」
なんと謙虚は少女なんだ。やはり学年首席だろうがなんだろうが、世の中の学問は知らない事だらけなんだろう。
『学問』か。今までやった事のないゲームではあるが、なかなかに深いようだ。なんでもゲームに例えるのもあれだが。
要するにテスト勉強はスコア競争をするゲームみたいなものだろう。そう考えるとソシャゲと大して変わらない。
考え方ひとつで大分楽になった。抵抗感が少なくなる。
「それじゃ、私の部屋で一緒に勉強しよっ」
俺は凛に案内される。今凛は『私の部屋』と言った。
つ、つまり、俺はこれから凛の部屋に行くのか。女の子の部屋に。しかも学園の女神様の部屋に行く。
男の子にとって女の子の部屋に行くという事は特別な事だ。俺の心臓が高鳴る。ドキドキが止まらなくなっていた。
「菊池様……」
執事さんが怖い顔をする。
「は、はい」
「もしお嬢様に手を出されましたら、あなた様は社会的に抹殺されますのでゆめゆめお忘れにならないように」
ドスの利いた声で言われる。俺は背筋をピンと伸ばした。
「は、はい! ぜ、絶対に手なんて出しません! 絶対に!」
「よろしい……お嬢様のよきご友人でいてください」
「もう。柳さん……団長さんはそんな事する人じゃないよ」
この執事の爺さん。柳という名前なのか。どうでもいいが。そう何度も凛の家を訪れる機会があるとも思えないし。何度も会う事もないと思うが。
「ねっ? 団長さん」
凛は天使のような笑みを浮かべる。
「も、勿論だとも……はははっ」
小心物の俺は社会的な抹殺すら恐れずに凛に手を出す。なんてそんな度胸は微塵も存在していないのだ。
それに今の俺にとって凛との関係は大切な宝物のようなものだ。その関係が壊れるのが怖い。
それは間違いなく性欲より勝っている。思春期の性欲なんてのは凄まじいから、それよりも強い気持ちっていうのはよっぽどのものだろう。
ともかく、執事の柳さんに釘を刺された俺は凛の私室へと向かうのであった。
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