第8話 二人だけの勉強会のお誘い

 俺がゲーム内で勉強宣言をした後の事だった。


「ん?」


 ゲーム内でDMが送られてきた。誰だろうか? 凛からだった。ユーザーネームはそのまま『RIN』なのだが。安直だな。俺みたいにアニメの主人公から取ってくるというのもダサいかもしれないが。まあ、原作はラノベだ。だから厳密に言えばラノベの主人公かもしれないが。


『団長さん……勉強するつもりなんですね。確かに一か月後に中間試験がありますもんね』


 そうだ。凛と俺は同じ学園に通っている。当然のように凛はその事を知っていた。凛も同じ学年だ。二年生だから、同じ日に同じ試験を受けるのだ。知ってて当然なのだ。


『ああ……そうだけど』


『良かったら、一緒に勉強しませんか?』


 凛は聞いてくる。


『え? 本当にいいの?』


 凛は学年首席の才女である。勉強を見てもらうのは俺個人の都合としては嬉しい事だ。要領よく勉強できて得だ。だけど、凛にとってはどうなのか? 彼女にとっては劣等生である俺から得るものなどそう多くはない。いや、そうでもないのか? 確かに人に教える事で自分の理解が増す、という事もある。


 情けは人のためならずともいう。もしかしたら彼女にとっても何らかの利益があるのかもしれない。


『はい。私も一人で勉強するの寂しいな、って思ってましたから』


 けど、あれなんじゃないか。塾や予備校なんて制度もある。進学校の場合、大体3年くらいの時にはそういう学校以外の学校に通うのが一般的だ。大抵、受験戦争に勝つ為には普通の学校だけでは事足りていないのが日本の教育の現状である。


 俺も三年生まで無事進級できれば、そういう塾やら予備校やらに通わされる事になるのかもしれない。大学もなんだかんだで進学するのかなぁ。

 

 大学進学率が50%程度になっている昨今、大学に行かない方が珍しいくらいだ。特にやりたい事もないから、適当に入れそうな大学でも入るビジョンしか見えない。その適当に入った大学でだらだらソシャゲをやったり、けだるく授業に出たりするのかもしれない。


 ありそうだ……そんな未来。やりたい事や夢のために邁進する未来なんてとても見えない。


 だけど俺だけじゃないだろう。大抵の人はそうやって適当な人生を送ってるもんじゃないか。特別な人間になれる人はそう多くはない。特別な人間か……。


 今すぐ思い当たる人物は今DMのやり取りをしている望月凛が思い浮かぶ。


『へー……望月さんは塾とか予備校行ってないの?』


『行ってません』


『へー……』

 

 独学であれだけ勉強ができるのか。やっぱり頭の出来が違うな。だらだらソシャゲに時間割かれちゃったりしないのか。あれか、オンオフの切り替えがきっちりできるタイプなのか。確かに東大生でも今、勉強一辺倒は少なくて、部活なんかをちゃんとやるタイプが多いとは聞く。


『家庭教師が来てくれますから』


「はは……そうか」


 俺は苦笑いをした。そもそも経済基盤が違うのだ。教育にかけられるお金も違う。教育格差というものには直面せざるを得ない。格差はなんにでもある、それが現実であった。


『俺としてはありがたいんだけど……凛が大丈夫ならお世話になっていいかな』


『はい! 私も団長と一緒に勉強するのとっても楽しみです!』


『どこで勉強するの?』


『あの……よろしかったら私の家(うち)でやりませんか?』


『え? 望月さんの家で』


『団長さん、あまり人に一緒にいられるの見られると嫌みたいですし。私の家なら広くて部屋もいっぱい空いてますから』


 凛は言う。確かにそうだ。ファミレスや図書館なんかで勉強をしてみろ。俺はあの望月凛と一緒に勉強ができる間柄という事になる。あらぬ噂を立てられる事だろう。


 だ、だけど、女子の家に訪れるのはそれはそれで問題だろう。特別な行為に思える。それでも興味はあった。あの望月凛の家だ。どんなすごい家なんだろう。社会見学をするみたいで興味津々だ。


『望月さんがそれでいいっていうなら是非、勉強を教わりたい……じゃなかった、一緒に勉強したいけど』


『やった……じゃあ、今度の日曜日、一緒に勉強しましょうね。場所はまた送りますから。朝の10時頃に来てください』


 こうして今度の日曜日に俺は凛の家に訪れる事になった。その事を楽しみに、俺は平日の退屈な日常を何とか乗り切ったのである。

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