第7話 試験勉強を始めます

「やっぱりだめだ……このままじゃ俺は」


 俺は自宅に帰った。


「光星、またゲームばかりするんでしょ? いい加減あなたも高校生なんだし、成績だって心配よ。このままじゃ卒業どころか進級できないんじゃないかって」


 母親が小言を言ってくる。定番の小言だ。『勉強しろ』この手の小言を言ってくる親は多い。


「わかってるよ、母さん。俺だってそれくらい」


「あら? 随分と態度が違うじゃないの? 何かあった? 『いいから課金するために金よこせババア!』があなたの口癖だったじゃない」


 母親が驚いていた。


 なんだ、その口癖は。なんてひどい奴だ。


「そんなひどい事言ってないよ。『いいから課金するためにお金くださいお母さん」って俺は言ってたんだよ」


「表面上の言葉は変わってても内容は一切変わってないわねぇ」


 母親は呆れていた。そうだ、俺はどうしようもないクズだ。ソシャゲをするだけのクズ。

 だけど、望月凛に会ってそれだけじゃだめだと思うようになってきた。


 ◇


 俺はカレンダーを見る。一か月後に学園の中間試験がある。俺はそれに向けて普段より勉強時間をキープしようと思っていた。


 無論、その間にはグロブルの育成周回と、グロブルにおける中間試験『決戦場』があった。

 

 だから、グロブルプレイヤーとしてグロブルのやり込みは欠かせない。だが、それと同時に俺は勉強も頑張ってみる事にしたのだ。

 グロブルカーストの順位だけではなく、現実のスクールカーストの順位を上げなければ。


 それであわよくばあの望月凛と……なんて事をベッドの上で考えてしまう。


 なんなんだ。俺は。陰キャはこれだから困る。女子に少し優しくされただけで慣れてないもんで自分に気があると思い、付き合えると思って舞い上がってしまうのだ。


 散々、女になんて興味ない。二次元の嫁がいるからみたいに強がっていてもこれだよ。目の前に存在する彼女のリアリティ、柔らかさ、温かみ。それに触れてしまうと気が狂ってしまいそうになっていた。


 付き合うなんて無理だ。俺と凛ではグロブル内はともかく、現実世界では天と地ほどカースト順位が違うのだ。


 付き合うなんてのは無理にせよ、人前で堂々と話せるようになりたい。せめて、普通に会話ができるくらい自分に自信を持ちたい。だからその為にとりあえずは学園の中間試験で良い点を取りたい、俺はそう考えるようになっていたのだ。


 よし。その為にも。俺がグロブルの世界にログインをしたのである。やはりゲームの繋がりは大切にしなければ。


 ◇


 俺は団員達とチャットを始める。


『皆聞いてくれ』


『『『『はい!』』』』』


 俺は偉そうに語り掛ける。実際、ゲーム内では団長という事でえらい立場なのではあるが、現実が最底辺の社会的弱者なので空しく感じられた。

 

 目の前には複数人のアバターが存在した。皆、うちの団員達である。


『一か月後に決戦場がある……だが、それと同時に俺には中間試験があるんだ。実は俺は現役の高校生でな』


 団員は騒めき始めた。


『だ、団長って高校生だったんだ』


『私てっきり、暇な大学生かと……』


『僕は団長が無職! いえ、専業騎天士(グロブルを専業でやっている無職の事)だと思ってました!』


 ひどい扱いである。誰もグロブルのトッププレイヤーが忙しい社会人だとは思わないであろう。無理もない。


『そういうわけで決戦場があるにはあるが、中間試験の勉強もしなければならない。だから、皆で上手い事分担して貢献度を稼いでくれ! 次回の決戦場は俺一人ではなく、皆で協力して勝ち取るんだ!』


『『『『はーい!』』』』』


 皆が答える。

 

 よし、団員の皆に宣言した。その為に俺は勉強を頑張ることにしたのだ。少しずつだが、俺は変わり始めてきた。


 今まで自宅では目を通さなかった教科書に目を通したり、問題集を解いたりするようになったのである。


 そしてこれが望月凛との思わぬ接点を作り出す事になるのである。





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