第6話 学園の女神様との再会
「はぁ……昨日はとんでもない体験をしてしまった」
登校中、俺は昨日の事を思い返していた。月曜日というのは普通はけだるい曜日のはずだ。休みが終わり、学校や会社の始まりだからだ。憂鬱な現実が始まる魔の曜日。それが月曜日のはずである。
だが、そんな憂鬱な気持ちが消し飛ぶ程、日曜日に起きた出来事が衝撃的過ぎたのだ。
あの学園の女神様――事、望月凛が俺の団『結盟騎士団』の団員だと。夢だと言われればすぐ信じただろう、その出来事。望月凛と二人っきりで会ったという出来事、その出来事の衝撃が多すぎて。
月曜日の憂鬱さなど吹き飛んだ。俺に友達がいれば「どうしたんだ? 今日はやけに機嫌がいいじゃないか」とか、俺の様子の変化に気づいてくれたかもしれない。
だが、不幸にも俺には友達がいなかった。俺はスクールカースト最底辺のコミュ障のボッチなのである。陰キャに友達を作るのは、彼女以前にハードルが高く、難しい出来事なのだ。
彼女か……その前に友達できたらいいなー。できたらいいなと思っているだけで俺からは別に何もしてないんだけど。
買ってもいない宝くじが当たったらいいなと思っているだけだった。当たるわけもない。買ってもないんだから。けど行動して失敗するのも恥かくだけで嫌な思いしそうで、俺は嫌なんだ。そういう複雑な気持ちがあった。
行動して失敗するくらいなら今のままでいい、そういう人間らしい本音が俺を支配していた。
学園に着いた時の事だった。俺は廊下を歩いていた。その時、俺は学園の女神様、こと望月凛との再会を果たす事になる。
「……あっ! 団長さん!」
手を振って望月凛が近づいてくる。
「でさぁ……それで」
「ん? あれって望月さんじゃね? 誰と話してるんだろ」
その直後、歩いている男子生徒複数名に見られた。
ま、まずい。
「えっ! きゃ!」
俺は誰にも見られないように物陰に凛を連れ込んだ。
「はぁ……これで見られない」
「だ、団長さん……」
ま、まずい。余計にまずい事になった。物陰に連れ込んだ事で、体が密着してしまった。顔がすぐ近くに見える。吐息が当たる程に。
「ど、どうしたの? ……そんなに強引に」
凛は顔を赤らめた。
「ご、ごめん……悪気はなかったんだ。でもこれは望月さん、君を守る為なんだよ」
「私を守る為? どういう事?」
「君は学園の女神様。皆の憧れなんだ。そんな君が俺みたいなスクールカースト最底辺の陰キャと一緒にいるところを見られてみろ。俺の株価は最底辺だからいいんだ。底値なんだから。最低なんだからこれ以上のマイナスはない。だけど君は違うんだ」
これは俺なりの優しさだ。確かに望月凛とコネクションがあるという事、会話ができる存在であるという事は俺からすれば自慢したい。できればしたい。
なぜならスクールカースト上位の人物と知り合いである。会話ができるというだけで、自分のカースト順位が上がる事が往々にしてよくあったからだ。だけど、それは自分の力じゃない。
よくいるだろう。『芸能人の〇〇』と知り合いとか、コネがあるとか言ってマウントを取ろうとするの。
だけどあんなものは虎の威を借る狐以外の何物でもない。その有名人や芸能人はそいつの事は本当は知りもしないかもしれないし。実際知り合いでもそう利用されるのは迷惑以外の何物でもない。
俺はそういう風に彼女を利用したくないんだ。
「俺と一緒にいるところなんて見られたら君の株価が落ちてしまうんだよ。俺は君にそんな損失を背負わせたくないんだ。せっかく君はスクールカースト最上位の勝ち組なんだから、そのままでいてくれ。俺のせいで君の評判が落ちたら明日から学園に来れなくなっちゃうよ」
「そんなスクールカーストだとか……評価とか、私気にしてないよ」
恵まれた人生を送ってきた彼女は気づいていないんだろう。底辺に落ちる事の悲しさ、切なさを。無視、いじめ。嘲笑。スクールカーストの底辺に落ちるという事は陰湿ないじめのターゲットにならざるを得ない。そういった学園社会の現実を直視した事が彼女にはないんだろう。
「君が気にしなくても俺は気にするんだよ。君と一緒にいる事で損をさせたくないんだ。わかってくれないか?」
「う、うん……わかったよ。団長さん」
「連絡はゲーム内のDMでするから。その時にでも……」
「う、うん」
「ごめん、望月さん。今の俺じゃまともに君と向き合えそうにないんだ。だから俺も努力するから、現実でも君のように。努力していくから、それで胸を張れる自分になったら君とまともに話せるようになりたい。皆の前でも」
俺は凛にそう告げ、彼女と別れた。彼女との出会いが俺を変えようとしている。
今まで逃げてきた現実から、俺を向き合わせようとしている。
変わらなきゃいけないんだ。俺は。このままソシャゲの世界に逃げ続けていてはいけない。ソシャゲのトッププレイヤーというだけで、高校生生活を終えるわけにはいかない。
いつか凛と向かい合って話ができるように。リアルでも、人前でも。
自分が変わっていかなきゃいけないんだ。俺は強くそう思うようになっていた。
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