第4話 学園の女神様がうちの団員だったようですよ

 ま……まさか……まさかな。


 俺は驚き、スマホを持つ手が震えていた。決戦場の時で僅差の時でもこんなに手が震えた事は一度たりともないというのに。


 俺の目の前にいるのはあの学園の女神と称えられているスクールカースト最上位。いわば、カーストの頂点にいる、神のような存在である。


その彼女の普段見ない私服バージョンである。白いワンピースが眩しかった。そしてその白いワンピースにも負けないくらい白い、雪のように白い肌を彼女は太陽の下に晒していた。あまりに綺麗な白い肌なので日焼けが心配になるような。


 その女神様が目の前にいる。それどころか、俺の方に振り向いた。あの女神様――事、望月凛が俺を見ている。石コロだとしか思われていないはずの俺を見ている。石コロではなく、人間として認識して見ている。


 その事実が俺にとっては衝撃的だった。まさかと思った。まさか、今日の待ち合わせの相手があの学園女神様である、『望月凛』だったのか。い、いや、でもわからない。俺が手を挙げるように合図した瞬間、彼女は偶然手を挙げただけかもしれない。


 だから、確認を取ってみるまでは俺はわからなかった。


「も、もしかして君が、あの『RIN』さん? グロブルのギルド『結盟騎士団』のギルド員の……」


 もし違っていたらどうするんだ。俺は学園の女神様に意味不明な妄言を吐いた異常者として、明日から学校中の噂になってしまうかもしれない。

 確かに凛=RINだとすると、安直なハンドルネームの付け方からすると納得はできてしまうのだ。だが、最初の時点ではまさかあの望月凛と一致なんてできるわけもなかった。


「は、はい……そうですか。もしかして、あなだが団長の『イリト』さんですか?」


『イリト』安直な俺は読んでいた大人気ラノベ『SRO』の主人公である、二刀流の黒の剣士イリトから、そのまま名前を取ってきたのである。俺は俺で安直であった。

俺もゲーム世界で無双して、アスカのような女剣士と恋人同士になりたい。俺はそんな淡い気持ち抱いて、あの原作ラノベを読み漁り、アニメを見ていたのである。


「は、はい……僕がイリトです」


 だせえ……超だせぇ。いざこのハンドルネームを口にすると。俺はゲームの世界では英雄かもしれないが、現実では本当何もない、ただの底辺なんだ。イリトもそんな感じかもしれないけど、あいつは現実世界でもアスカって彼女がいるし、仲間から慕われてるじゃん。俺はそういうの一切ないの。何もないの。 

 

 本当ゲームの世界で英雄ってだけで現実的にはただのスクールカースト最底辺の雑魚なの。石コロなの。


 だからラノベの主人公と同じ名前つけたの超だせぇと思った。今この瞬間、俺はすげー後悔している。


「団長!」


「えっ!?」


 望月凛はその後、思ってもいない行動に出てきた。なんと、俺に抱き着いてきたのである。良い匂いがした。シャンプーとかの匂いかもしれない。これは聞いた事がある。これはそう、女の子の匂いだ。それに柔らかい。体、当たってる。肌の感触だ、これは。


 それに背が小さくて……人形みたいだと思ってたけど、それでもやっぱり高校生という事はそれなりに成長した女性でもあった。


 二つの柔らかい感触が走る。胸と腹の中間あたりに。


「会いたかったですー」


 望月凛が猫のように俺に顔をすり寄らせてくる。


 絶世の美少女が何も気にせず猫のようにじゃれてきた事で、俺は周囲の興味と視線を集めた。


 や……やばい。あまり注目を浴びたくはないが、それでも、この至福のような時間をしばらく味わっていたい。


 そんな矛盾した感情が俺を支配していた。




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