第六話 決戦、令和3年大型連休前


 令和3年5月1日(土)、500起床検温、同50出立、655職場に到着、700打刻とともに業務開始。

 人気ない事務所に入り、手洗い指手消毒完了、パソコン起動、デスクチェアに座り込む。


 その日は、朝から戦闘態勢だった。


 例年、大型連休は月末・月初を挟んでいるが、全社を挙げて年度末から導入しているシン、、・勤怠管理システムにて、部署全体の四月締め作業を月初に完了せねばならなかったのだ。

 もう、このシン・勤怠管理システムが※@★5!!*-tuvl5=)LG????なのである。まろやかに言い換えれば〝ちょっとだけ時間かかるかな~★〟なのである。

 確かに慣れたら圧倒的に業務削減、時間短縮、残業殲滅。でも慣れるまでが大変で、その〝慣れるまで〟の真っ最中なのであった。タイムリミットは1500(課長帰っちゃう)、それまでに終わらせなくては・・・・・・連休消失ホリデーインパクトが起きる。

 

 ──絶対に阻止せねばならない。全私の命運がかかっている。


 大丈夫、イレギュラーな案件がなければ余裕で終わるはず・・・・・・うん、イレギュラーな案件がないはずなかった。というか、家族の入院でイレギュラーな勤務したの私じゃん!

 トライアンドエラー、トライアンドエラー、手を変え品を変え、方策尽くすもうまくいかない、こちらを立てれば、あちらが立たぬ。もういっそ残業ゼロにすれば処理できるか、いや、機械システムに人を合わせて事実を捻じ曲げるってどういうディストピア、迫る時間、焦る私、響く脳内アラート。


「課長!」

「なんだね、坂水くん」


 1400、私はついに最終兵器の投入を決意した。


「システム課長に協力要請します、課長の社用携帯貸してください!」


 眼鏡越しにも顔色が変わる。システム課は連日の激務により、全員休みである。課長は他課長に借りを作りたくない。なれど勤怠管理が終わらねば連休消失ホリデーインパクトの影響を受けるのは課長も同様。

 数秒の沈黙の後、苦々しい吐息と共に携帯が差し出された。



「・・・・・・やりたまえ、坂水くん」


「ありがとうございます!」



 かくて、システム課の上長に縋るという反則技を使ったものの、連休消失ホリデーインパクトは無事回避されたのだった。






 連休を確保した私は、帰還途中、意気揚々とスーパーに寄った。疲労困憊ではあったが、達成感、充足感に満たされていた。

 どうにか無理くり終わらせた。結局、システム課長も完璧な解を示してくれなかったが、これでいいかな、いいと思う、いいんじゃない多分、そこ変だけど気にすんな〜!との言質をとった。

 かよう、ちょっとぐらいわからなかったりやらかしても、次手を打ってケツまでもっていく(責任のなすりつけどころを見つける)、これが大人になるってことよ、と悦に入っていた。

 

 スーパーでは購入するものは決まっていた。挽肉、トマト、なす、パプリカは高いから代わりにピーマン、かいわれ大根、そして最安値のルウ。生鮮品のほとんどにおつとめ品があり、かなり安上がりとなった。夕飯のメニューは決定済み、余計な物は買わない。

 ここまで書けばおわかりであろう、水なし自動調理鍋の面目躍如、キーマカレーである(みりあむさん鋭い!)。

 

 トマト、玉ねぎ、なす、パプリカ(今回はピーマン)、挽肉、ルウのすべてを内鍋に入れて〈まぜわざユニット〉装着。おや、レシピには材料表の順に入れてと書いてある。うん、もう遅い、でもささいなこと、ささいなこと、へーき、へーき、なんとかなるなる~

 厄介な仕事片付けて連休に突入し、妙に気が大きくなっていた私は上機嫌のままスタートぴした。待つ間、エッセイ(第四話『胡麻、落ち込んだ後』)を書き綴る。ポメラへの指運びは快調だ。


 〈出来上がりです、仕上がりを確認してくださいね〉


 集中して書いているとあっという間に20分経過。ホットクックの声が響く。この電気自動調理鍋はおしゃべりでさんである。これに関しては色々あるのだけれど、また別の機会に。

 蓋を開けると、大成功──いや、ルウが溶けきっていない。でも、レシピにも〝加熱後、全体を混ぜる〟とある。お玉でぐるぐる渦を描けば、湯気が踊り、いっぱいの具が艶めいた鬱金をまとい、スパイシーな香りで鼻孔をくすぐってくる。そのエキゾチックな美女たる誘惑、たまらん。

 保温モードにして、手早くサラダを作り(かいわれ大根をぶった切るだけ)、ご飯が炊けるまで続きの執筆。このペースなら今晩中に公開できるかも。仕事して、夕飯作って、執筆、これはまさにデキル大人である。

 そして何度か読み直してエッセイ公開、猫トイレを片付け、ご飯を用意して、人も食事へ。

 無水キーマカレーは絶品だった。トマトの酸味ほどよく、ナスは存在感あり、硬めに炊いたご飯によく合う。スーパー最安値のルウ(こくまろ中辛)を使用したとは思えない。


 さて、今回、オチはない。そう、シナリオ通り、、、、、、に。

 ホットクックが届いたのは4月19日。この日程には意味があった。来る五月の黄金色の連休ゴールデンウィークを見据えた、慣らし期間だったのだ。これから五日間、ホットクックを使い倒す、当然、オチなしで。


 ・・・・・・すべては坂水のシナリオ通り。〈つづく〉

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