第8話8

朝が慌ただしく過ぎて、昼休みになった

恒輝は、オメガの怖ろしさを十分分かっていたつもりだったが…


今日は、それをまざまざと見せつけられた。


出会ってまだ数時間で、そんなに話しもしていないはずなのに…


田北と岡本の二人は、すでに明人と打ち解け合って、昔からの友人のように話して、


明人の机を中心に、他の生徒の机を借りて弁当を教室で一緒に食べようとしていた。


(田北、岡本…お前等…完全にオメガに取り込まれちまったな…)


恒輝が自分の席の横に立って、呆れたように明人と友人2人を見て思っていると

、明人が、恒輝に微笑んで言った。


「西島君も、一緒しよう!」


明人の笑顔は、爽やかな花のようなのに

、どこか誘うような妖しさがある。


ずっと懸命に明人の色気に抗っている恒輝だったが、又、一瞬ボーッと見詰めてしまい、慌てて我に返る。


「あっ…ああ…」


渋々だが、友達になる…と言った手前、カバンから弁当を取って、明人の近くへ行こうとした。


だが、その間、3時間目と4時間目の間の休み時間に、明人が恒輝に言った言葉を思い出した。


それは、恒輝がふとした弾みで、勉強が出来るから、明人にアルファの素質が有るんじゃないか?と冗談混じりに言った後の言葉だった。


恒輝は、別に他意は無く、正直に思ったままを言ったつもりだったが、


言ったあと、明人にオメガを馬鹿にしたと受け取られたんではと後悔した。


オメガは、ずば抜けて容姿端麗な者が多いが、アルファのような頭脳や身体能力は持っていない者が多かった。


案の定、明人は、複雑そうに微笑んだ。


「あ…どうだろう?でも…」


一瞬、明人は言い淀み、さっきまでの穏やかさを捨てて恒輝を目を眇めて見た。


その明人の視線がどことなく、美味しそうな獲物を見付けた獣のように見えて、恒輝は一瞬焦る。


まるで明人が一瞬アルファのように、恒輝には見えた。


「確かに…西島君、君を初めて見た時、俺は、その時々でオメガとアルファのどっちにもなれるんじゃないかと思ったよ

…」


その明人の言葉の本当の意味が、恒輝には未だに本当に謎だった。


「いいよなー!恒輝は!毎日毎日花菜ちゃんにお手製弁当作ってもらえて!」


田北が、拗ねるように口を尖らす。


そして、恒輝の肩を急に揉みだす。


「なぁ…恒輝様…もう何度もお願いしてるけど、花菜ちゃん…俺の彼女にしてくれ!頼む!」


又、その話しか…と、恒輝は、嫌そうな顔をした。


「ふざけんな!花菜を、てめぇみたいな半端なヤローと付き合わすかよ!」


その恒輝の様子を、明人が黙ってじーと強く見詰める。


恒輝は、意識しまい…意識しまい…と思いながら、その明人の視線を気にしてしまう。


「花菜ちゃん…美人だもんなぁ…」


机に座り弁当を広げ、岡本も頬杖を付いてうっとりと言った。


「もう、腹減った!メシ食わせろ!」


溜息を付いて近くの空いている他人の席にドカッと座り、恒輝は弁当箱のフタを開けた。


だが、いつもと違う弁当に恒輝は焦り、慌てて弁当箱を閉めた。


「ナニ?ナニ?ナニ?恒輝、どうした?


田北が、楽しそうに横から覗く。


「いっ…いや…その…きょっ…今日は、花菜の弁当マズそうだから、ちっと購買行ってくるわ!」


恒輝が弁当箱を持って自席へ戻ろうとした時、横から田北がその弁当をさっと取り上げた。


「食わないなら、どんなマズくても花菜ちゃんが作ったならいいから俺にくれ!


「てめえ!返せ!返せよ!」


恒輝がムキになって取り返そうとすると

、田北がカパっとフタを開けた。


「えっ?!」


田北の顔が、一瞬凍りついた。


弁当箱の中にはおかずは一つも無く、一面に白米が敷き詰められ、その上にピンクのでんぷんで、大スキ❤️と描かれていた。


























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