第52話052「さらなる襲撃」



——不可視インビジブルが去った後、ラウは部屋から寮の管理室に連絡し、部屋で襲撃にあったことを説明し、騎士団と魔術士団に学校に向かわせるよう指示を出し、その来るまでの間、タオ・リーチェンとその協力をした執事や使用人たちをラウとレナが拘束していた。


 そんな中、トーヤがリカに質問をする。


不可視インビジブル⋯⋯奴は何者なんだ、一体?」

「私も詳しくはわからん。だが、私がお前と話をしたがっていた理由の一つにこの不可視インビジブルが関係してくる」

「何?」


 リカは一度、深く大きく息を吸って話し始めた。


「今から三年前——私はこの世界に⋯⋯この異世界に転生してきた」

「な⋯⋯っ?!」


 リカの言葉に俺は言葉を失う。


「お、お前も転生者なのか!」

「ああ、そうだ。しかも前世はお前と同じ日本人だ」

「マジかよ⋯⋯て、ちょっと待て! お前、何で俺が日本人だったってこと知ってるんだ?」

「アリス・グレイス・ガルデニアの執事から聞いた。あいつは私の依頼者でもあるからな」

「依頼者?」

「ああ。アリス・グレイス・ガルデニアの暗殺を阻止するためにあいつは私に調査と護衛の依頼をしていたのだ。ただ、表立って護衛するのはお前にまかせているということだったので、私は裏で監視と護衛を行っていたのだ。ちなみにこのことをアリス・グレイス・ガルデニアは知らんがな」


 なんてこった。あの執事さん、アリスに黙ってそこまで周到に準備していたのか。さすがだな。


「そして、問題なのはここからなのだが⋯⋯不可視インビジブルは理由は不明だが私やお前が『転生者』であることを知っている」

「え⋯⋯っ?!」

「そして、私は⋯⋯この世界に転生した三年前に一度奴に遭遇した。というより奴が目の前に現れた。そして、いきなり襲ってきたので私はすぐさま応戦した。それから数度やり合うと奴は突然手を止めた」

「え? なぜ?」

「奴はこう言った⋯⋯『私が求めている転生者はお前じゃない』と」

「え? それってどういう⋯⋯」

「そして、こうも言った⋯⋯『いずれ、また会いましょう。お前ではまだ力不足だからその時までもっと鍛えなさい』と」

「その時⋯⋯? その時って何のことだ?」

「わからん。だが、奴の目的は『転生者の成長』⋯⋯つまり強くさせることらしい」

「どうして奴は俺たちを強くしたいんだ?」

「それもわからん。ただ、あいつが『トーヤの成長に私が必要』と言っていたのを考えればあいつが探し求めていた転生者というのはお前なのだろう」

「一体、何が何だか⋯⋯」


 俺はまるで状況がわからないままだが、それはリカ・ブリッジストーンも同じのようだった。


「とりあえず今、問題なのは第一王子のライオット・グレイス・ガルデニアだ。不可視インビジブルが言っていたことが本当だとすれば、一刻も早く第一王子のライオットのところへ向かう必要がある」

「た、たしか奴は第一王子のライオット様は人間ではないと言っていた。それって、まさか⋯⋯」

「魔族⋯⋯になっている可能性がある」

「っ?! そ、それじゃあ、アリスが危険なんじゃ⋯⋯」

「そういうことだ! 急ぐぞ! ついてこい、トーヤ! 教室に戻るぞ!」

「えっ?! お、おう!」


 リカが部屋の窓から飛び降りるのを見て、俺も一緒についていく。


「トーヤ!」

「お兄ちゃん!」


 ラウとレナが声をかけてきた。


「とりあえず俺はリカ・ブリッジストーンについていく! 向かう先は教室だ!」

「わかった。では私とレナちゃんも後から追いかけて教室へ向かう。先に行っててくれ!」

「わかった! ラウ、妹のこと頼んだぞ!」

「まかせとけ!」


 そう言って、俺はリカ・ブリッジストーンの後を追いかけた。



*********************



「遅い! 急げ!」

「うっせーな。急いでいるよ!」


 俺はリカ・ブリッジストーンと一緒に教室へと直行していた。すると、


 ドーーーーーン!


 一年の教室がある三階の建物から破壊音が鳴り、噴煙が上がっていた。


「っ!? い、今の噴煙が上がっている場所って俺たちの教室のほうじゃ⋯⋯」

「ちっ! もしかして不可視インビジブルの襲撃は⋯⋯陽動だったか!」


 リカ・ブリッジストーンは苦い顔をしながら先を急ぐ。



——一年教室


「⋯⋯はー、やっぱりレオは使い物になりませんね」


 ガシッ!


「うぐ⋯⋯っ?!」


 先ほど、トーヤに殴られ教室で倒れていたマクラクラン高家のレオ・マクラクラン。そのレオを今、足蹴にし蔑むような言葉をかけたのは、


「き、貴様⋯⋯!!!! こ、この私に対して⋯⋯な、何をしているのかわかって⋯⋯いるのか!?⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ロビン・ステファノ」


 ステファノ高家ロビン・ステファノ。


「せっかくトーヤ・リンデンバーグを怒らせてお膳立てしたのに、全然歯が立たなかったね、レオ?」

「お、お膳立て⋯⋯だと? ま、まさか、お前がトーヤ・リンデンバーグの妹を⋯⋯」

「ああ、そうだよ」


 ロビン・ステファノはあっさりとレナを誘拐したことを白状する。


「き、貴様、貴族のくせに⋯⋯そんな⋯⋯卑怯なマネを⋯⋯」

「なんだよ、レオ? お前だって平民のトーヤ・リンデンバーグには厳しく当たっていただろ?」

「ああ、そうだ。だが、俺はお前と違ってあいつとは真正面に向き合ってぶつかっていたつもりだ。お前のような卑怯な手などは使ってはおらぬ!」

「いやいやいや、お前もやっていることは平民イビリと一緒だっただろう?」

「一緒にするな!」

「⋯⋯心外だな。別に平民の子供を誘拐したところで俺たち四高家にとっちゃ、お前の平民イビリも私のやっていることも同じではないか。ま、でももういいや。レオは結局使い物にならなかったことがわかったから」

「き、貴様⋯⋯私に対してこのような態度を取るということはマクラクラン高家に対しての宣戦布告となるぞ? 覚悟はできているんだろうな?」

「はっはっは⋯⋯宣戦布告ね。もはや、事態はそんなレベルじゃないんだよ、レオ?」

「何?」


 そういうと、ロビンは今度はアリスに向かって歩き出した。


「ロビン様! こ、これ以上、アリス様に近づかないでください!」


 アリスの従者であるヴィアンがアリスの前に立ち警告をする。だが、


「下がれ、雑魚が!」


 ブン⋯⋯っ!


「きゃあっ!!!!!!!!!!!!!」


 ロビンはヴィアンを魔力だけで吹き飛ばした。


 ガシッ!


「っ!? ウルシャ!」


 壁にぶつかるところをアリスの執事であるウルシャ・バーレーンが現れ、ヴィアンを受け止めた。


「アリス様、おケガは?」

「大丈夫だ。よく来た、爺!」


 ヴィアンをアリスの元に戻すとウルシャ・バーレーンがアリスの前に立つ。


「ロビン様⋯⋯少しお戯れがすぎるようですが」

「フン! たかが執事の分際で⋯⋯言葉が過ぎるぞ、貴様?」

「アリス様に危害を加えようとする者に持ち合わす敬語などはありませんが?」

「ほう?⋯⋯どうやら貴様、死にたいようだな?」


 ロビンとウルシャが一触即発状態になっていた。その時、


「何やってんだ、お前?⋯⋯⋯⋯ようっ!」


 ゴォッ!


 突如、ロビンに対し突進し、拳を放ったのは2メートル近い体躯のある⋯⋯⋯⋯ゼストリア高家リガルド・ゼストリア。


「フッ⋯⋯」


 ガシっ! ズズズ⋯⋯。


「なにっ?!」


 誰もが巨漢であるリガルドの拳に吹き飛ばされる想像をしていた⋯⋯が、ロビンは片手でその拳を受け止めた。


「ふう⋯⋯。少し、体を持ってかれましたね。さすがに完全には威力を受け止められませんでしたか」

「な⋯⋯こ、こんな、ヘナチョコロビンに⋯⋯俺の拳が簡単に受け止められるなんて⋯⋯」


 リガルド本人はもちろん周囲の生徒たちもリガルドと同じ気持ちだった。


「私はもうあなたたちのような低レベルの存在ではないのです⋯⋯⋯⋯よっ!」


 ドガっ!


「ぐはっ!」

「リガルド様ーーーーーーっ!!!!!!!」


 リガルドはロビンの魔力のこもったパンチをボディに食らい壁に吹き飛んだ。


 シーン。


 周囲の生徒たちがその光景に一斉に静まり返る。


「私はもうお前たちとは次元の違う強さを得たのだ⋯⋯⋯⋯あの方によって」

「⋯⋯あの方? ロビン・ステファノ。今の『あの方』というのは誰のことだ?」


 ここでアリスがロビンに言葉をかける。


「⋯⋯アリス様。申し訳ありませんがあなたと言えども私からはお教えすることは叶いません。その質問の答えはあなたの兄、ライオット・グレイス・ガルデニア様からお聞きくださいませ」

「何っ?! 兄だと!」

「そして、私はあなたのお兄様にアリス様を捕らえてこいという命を受けております。そういったわけでアリス様、どうか抵抗せずに私についてきてくださいませ」


 そう言って、ロビンが丁寧な振る舞いでアリスに手を差し出す。


「させると思いますか? ロビン様⋯⋯」


 ガシっ!


 そう言ってウルシャが差し出したロビンの手を掴む。


「破っ!」

「っ?! なに⋯⋯っ!!!!!」


 ウルシャは掴んだ手と反対の手で魔力を込めた掌底をロビンに当てた。


 ズザザザザ⋯⋯!


 ロビンはウルシャの掌底を咄嗟にガードをしたが、その勢いは殺せず後ろへと体を飛ばされた。


「き、貴様〜⋯⋯」

「私はこう見えてもアリス様の執事兼ボディーガードです。そして、学生ごときに遅れをとるほど弱くはありませんよ?」


 そう言って、ウルシャが戦闘態勢をとった。


「⋯⋯面白い。では私の力を見せてあげよう。アリス様には申し訳ありませんがこの執事は⋯⋯生かせておけませんので⋯⋯⋯⋯ご容赦をっ!」


 ドン!


 ドン!


 ガシィィィィィン!!!!!!!!


 ロビンとウルシャが同時に飛び出し、お互いの両手を捕まえる。


「ぬぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」


 ドガーーーーーーーーン!


 ウルシャはロビンを力づくで窓際にぶつける。そして、その勢いは窓ガラスだけでなくその壁ごと吹き飛ばし、ロビンを外へ落とした。


「やったーー! ロビンをやっつけたー!」


 ヴィアンがロビンが外に放り出されたを見て勝利宣言を上げる。


 それもそのはずで、ここ一年の教室は建物の三階にあるのでその高さから落ちればタダで済むはずがないため、ヴェアンだけでなく誰もがウルシャの勝利を確信していた。


——しかし


「誰が⋯⋯やっつけた⋯⋯と?」

「「「「「えっ!!!!!!!!!!」」」」」


 窓の外には落とされたはずのロビン・ステファノが宙に浮いて立っていた。


 いや、宙に浮いていたというよりも⋯⋯⋯⋯黒い羽をバサバサとはためかせ浮いていた。


「っ!? そ、その黒い羽は⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯魔族っ!!!!!」


 ウルシャがロビンの姿を見て顔を青ざめる。


「だから言ったろ? 私はもうお前らのような低レベルの存在ではないと。さーて⋯⋯それじゃあ、そこの老ぼれ。少しは私を楽しませてくれよ?」


 そう言って、ロビンはスーッと教室に入ってくる。


 しかも、さっきのロビンとは違い、黒い禍々しいオーラを纏っている。


「じゃあ、第二ラウンドと行こうか?」

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